アスリート食導入の境界線 マラソン編(執筆者:管理栄養士・体育学修士 河谷彰子氏)

河谷彰子タイトル85

今の時期、たくさんのマラソン大会が開催されていますね。大会を楽しみたい!1
エントリーしたのだから完走したい!ベストタイムを出したい!と人によって様々な目標を掲げているのではないでしょうか?
“マラソンのアスリート食”について、一般的にキーワードになるのは“グリコーゲンローディング(カーボローディング)・水分補給”です。とっても簡略して説明すると、グリコーゲンローディングとは、走るトレーニングの後に炭水化物を補給すると、持久力アップになる・試合時にエネルギー切れを起こさないために試合前は炭水化物を多くとると良いとされています。水分補給に関しても、スポーツドリンクなのか水なのか・飲む量はどの位なのかという情報が出てきます。
さて、スポーツ栄養はどの段階から取り入れたら良いのでしょう?綺麗に線を引く事はできませんが、色々なケースを例に考えてみましょう。

 

ケース1 健康診断結果を改善しようとジョギングを開始。目標作りにマラソン大会にエントリーした。

会社員Aさんは健康診断で、血糖値やLDLコレステロールが高く、お医者様から1
体重を落とすために運動と食事の改善を勧められました。
会社から18時半に帰宅すると軽めの夕食を食べ、20:30~22時の時間帯に、毎晩30~40分かけて5kmのジョギングを始めています。ジョギング後には、水分補給にスポーツドリンクを250ml飲んでいます。

血糖値が高くなる食事の要因は“遺伝・夕食量が多い・砂糖を多く含む食べ物や飲み物の量が多い・ご飯+麺等、炭水化物を多く含む料理を1食に2品以上食べている”等が挙げられます。
LDLコレステロールが高くなる要因は“遺伝・魚より肉を好む・野菜不足”等が挙げられます。
血糖値・LDLコレステロールを下げるために、有酸素運動は勧められる運動です。(医師から運動を止められる場合もあるので、担当医に確認しましょう。)

Aさんの場合、血糖値が高いため、ジョギング後にご飯を食べるのは夕食時間が遅くなる事につながり勧められません。
血糖値が高くないという方の場合は、ジョギング前後どちらでも良いとも言えます。ジョギング前に何かを食べる場合は、ジョギング中にお腹が痛くならない程度の食事量や内容であれば良いです。ジョギング前後に食事を振り分けるのであれば、会社を出る時に、おにぎり等の主食を食べ、ジョギング後に肉や魚のおかず1品と野菜料理を食べるというのも1つです。
水分補給の内容は、とくにAさんの場合、スポーツドリンクは止めた方が良いでしょう。真夏でない限り、1.5時間未満の運動では水分補給は水で良いです。スポーツドリンク250mlには大さじ約1杯分の砂糖が含まれています。また、成人が1日に必要な砂糖の目安量は大さじ1~2杯です。水分補給のつもりが糖分補給になり、血糖値が上がってしまい兼ねません。
つまり現段階でAさんには、いわゆるスポーツ栄養は取り入れる必要はなさそうです。

ケース2 友人に誘われマラソン大会にエントリーする事になった。完走を目指したい!

会社員Bさんは健康診断の結果に問題はありません。ひょんなことから、友人に1
誘われてマラソン大会にエントリーをしました。エントリーするからには完走したいと考えています。しかし、毎晩遅くまで仕事をしているため、平日は全くジョギングができず、週末の日中に1時間かけて10kmのジョギングをしています。ジョギング中の水分補給は水を飲んでいます。
体重を落とした方が脚の負担も軽くなり、完走できるのではないか?5時間を切れたら良いなと考えています。またグリコーゲンローディングの考えを取り入れてジョギング後には炭水化物(バナナ)を食べるようにしています。
普段の食事は、3食をご飯・おかず・野菜がそろった定食を食べています。また、日中に集中力を高めようと、砂糖入りの缶コーヒーを1日に5~6本飲んでいるそうです。

確かに体重(特に体脂肪)が少ない方が、楽に走れます。
トレーニング頻度が低いので、体重減少は平日に食べている物で工夫する必要があります。1ヵ月に1kgの体脂肪を落とすには計算上一日当たり、約250kcalを減らせば良いです。缶コーヒー1本が約80kcalなので、5本で400kcalです。砂糖入りの缶コーヒーは減らした方が体脂肪減少につながりそうですね。
また、寝る時間に近い夕食は体重が増えやすいので、可能であれば時間を早めて食べるか、おにぎりを残業中に食べて、帰宅後におかずと野菜を食べるという具合に食べるタイミングを変えると体脂肪減少につながりやすくなります。

週1のジョギングという事と、目標タイムが5時間以内という事を考慮すると、グリコーゲンローディングを意識するよりも、フルマラソン中のエネルギー補給を何でどのようなタイミングでとると、調子が良いのか、身体に負担がないのかを探る方が優先順位は高いと思われます。そのため、ジョギング後のバナナは不必要とは言いませんが(日中に食べているため)、無くても問題ないでしょう。いつもより長い距離を走る際に、何キロの時点でバナナのような固形物が良いのか?エネルギー+水分補給を兼ねたジェルやスポーツドリンクが良いのか?等、試してみると良いでしょう。

つまりBさんには、グリコーゲンローディングを意識する事より、フルマラソン中の自分にあったエネルギー補給方法探る事の方が優先順位は高いという事です。

ケース3 週に50km走っており、フルマラソンでは4時間を切りたいと考えている。

会社員Cさんも健康診断の結果は問題ありません。趣味で始めたジョギングが1
高じて、今ではフルマラソンに何回もチャレンジしています。ベストタイムを更新し、4時間10分までタイムを縮めています。次回のフルマラソンでは何とか4時間を切りたいと週に50km・1km5分半ペースで走っています。本を読んで、無駄のないフォーム研究したり、ベテランランナーから教えてもらった水分補給やエネルギー補給方法を色々試しています。

ここまで極めていれば、スポーツ栄養でいう、グリコーゲンローディングを取り入れる事で、ベストタイムが出せるかをチャレンジしてみると良いと考えます。
試合の前日には脂・脂を控え(揚げ物を控え、ドレッシングはノンオイルを使用し等)、おかずは普段より少なくして、その分、ご飯・パン・麺・餅等を組み合わせて普段より多く(1.5~2倍)食べ、さらにデザートに和菓子やバナナ等の脂質が少なく炭水化物が多い物を食べると良いです。また試合前も餅・おにぎり・バナナを組み合わせ、炭水化物を多く食べ、レース中に口にするエネルギー補給用のゼリーやスポーツドリンクを飲むタイミングや内容も決めておくと良いでしょう。これらは試合で初めて実行するのではなく、長距離の練習をする際に試して自分にあった方法を探しておく事が大切です。

ちなみに、パスタローディングという名称もありますが、これはグリコーゲンローディングの方法としてパスタを食べる事が勧められている方法ですが、逆輸入の考え方です。
日本人は米を中心とした食生活のため、諸外国と比較すると炭水化物の量がもともと多いです。主食という考え方の無い国の方が無理なく炭水化物を多くとる事ができる料理がパスタ料理のため、グリコーゲンローディングの方法としてパスタを食べる=パスタローディングが勧められているという訳です。日本人がパスタ中心にすると、パスタソースの種類によっては脂質が多くなりかねません。米を中心に食べ、炭水化物をいつもより多く食べるという観点で2品目の主食にパスタ料理と考えると良いでしょう。勿論、ご飯+うどんも良いです(試合前は蕎麦よりうどんがお勧め。)。

いかがでしょう。私はいわゆるマラソンのアスリート食であるグリコーゲンローディング(カーボローディング)はフルマラソンで4時間というのが境界線と考えています。

 


◆執筆者:河谷彰子氏

管理栄養士
(公財)日本ラグビーフットボール協会 セブンズ  アカデミー栄養アドバイザー
慶応義塾大学非常勤講師

日本女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻、筑波大学大学院で体育研究科コーチ学を専攻後、運動指導及び栄養カウンセリング、食サービスの提案を行う、ジュニアユースからトップチームまでのJリーグ選手やラグビー選手への栄養アドバイスを行う。

URL:http://www.kouenirai.com/profile/2448.htm

コメントは受け付けていません。