ポリフェノール(執筆者:松山大学薬学部教授 天倉吉章氏)

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    第1回目のコラムとして何を書こうか迷ったが,やはり“ポリフェノール”をあげることにした。学生時代,日夜顧みず研究テーマとして取り組んだのがポリフェノールの成分研究。自分の原点はここにある。今でこそ,“ポリフェノール”は,日常生活の中でもよく耳にするようになったが,当時は国内外を含めて研究していたのは少数機関のみであった。ポリフェノール(特にタンニン)は分離精製や構造解析が難しく,「水酸基(-OH)を多く含む訳のわからないもの」をすべてポリフェノール(タンニン)として扱われてきた言わば,“邪魔者”だったわけで,研究対象として避けられてきた化合物群なのである。その研究をテーマとして展開した研究室の恩師らの偉大さを,後に感じることになった。

    化学用語として「ポリフェノール」は,分子内に複数のフェノール性水酸基(-OH)をもつ芳香族化合物群に対する総称を指す。これらは化学構造上特徴があり,取り扱いや作用を論じる場合同列に扱えないケースがしばしば見られるが,不適切な用語の使用により混乱が生じている場合もあるようである。化学用語や構造は馴染がなく,わかりにくいかもしれないが,ここでは各タイプのポリフェノールの特徴を簡単に紹介する。

(1)フラボノイド

    図1のような構造(フェニルクロマン骨格)を基本とする芳香族化合物で,野菜や果物,穀類等,食品素材に広く分布する。柑橘類に含まれるヘスペリジン,ソバに含まれるルチン,大豆イソフラボンであるダイゼイン,茶に含まれるポリフェノール〔エピガロカテキンガレート(EGCG)等〕もこの仲間である。

図1

(2)カフェー酸誘導体

    図2のようにベンゼン環に炭素3個が結合した構造を基本とする。コーヒー豆をはじめ植物界に広く分布するクロロゲン酸や,ローズマリー等のシソ科ハーブに含まれるロスマリン酸などがあげられる。

図2

(3)タンニン

    多くの植物に含まれ,嗜好飲料や食品素材のポリフェノールはタンニンを指す場合が多い。例えば,柿,赤ワイン,ココア,リンゴ,グァバ,甜茶等のポリフェノールはタンニンに属する。タンニンとはタンパク質等と難溶性の沈殿を形成する性質をもつ分子量500以上の植物ポリフェノールを指す(それゆえ,フラボノイドやカフェー酸誘導体の中にタンニンの性質を有するものもある)。元来,タンニンは獣の皮をなめして革にする目的で利用され,機能性成分として取りあげられたのは,その構造が明らかになってからである。化学構造の特徴から,図3のような縮合型タンニンと加水分解性タンニンに大別される。

図3

    セルフメディケーション(自分の健康は自分で守る)の重要性が指摘されている昨今,ポリフェノール類は生活習慣病等の疾病予防に有効であるという報告が多く,食品中にも含まれることから医(薬)食同源の本質として示唆される。真に有効な成分であるかどうかは今後の研究課題であるが,食経験や伝承薬物の中で選択してきた天然素材にポリフェノールが多く含まれていることを考えると,その可能性は十分期待できるのでは。


◆執筆者:天倉吉章氏

松山大学薬学部教授