ウメ(執筆者:松山大学薬学部教授 天倉吉章氏)

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梅雨とウメ

    梅雨と書いて、“つゆ”・“ばいう”と読む。6月頃、毎年巡ってくる雨の多い時期のこと。この語源には諸説あるようだが、ウメ(梅)の実が熟す頃という説もあるようで、梅雨のこの時期、スーパー等に入るとよく目にするのがウメである。中には、氷砂糖、ホワイトリカー、ガラス容器や竹串まで、梅酒を作るための一式とともに、ウメが店頭に並ぶのも見かける。ほんのり酸味のきいた特有の味と香りをもつ梅酒は、老若男女を問わず好まれるお酒である。最近はその地方特産で厳選されたウメを使った商品もあり、日本酒や焼酎のように、銘柄で飲み比べできるようになってきた。梅酒はもちろんだが、漬けこんだウメの果実自体も甘酸っぱくておいしい。

 

梅干し

    一方、ウメといったらやはり梅干し。以前は各家庭で梅干しを漬け、日本独特の保存食として親しまれた。日の丸弁当にも登場し、今でもおにぎりやお弁当には欠かせない、日本を代表する食材の一つである。ごはんとの相性は言うまでもなく、食欲のない時でも梅干しがあれば箸が進む人も多い。また強い酸味による殺菌・防腐作用がある。このように食欲増進だけでなく、保存性もあることから、弁当には理にかなった食材といえる。梅酒は熟していないウメ(青梅)を使うが、梅干しは熟したものを使う。梅干しを作るには、天日干しをしたり、移しかえたり、結構手間のかかる作業が必要である。梅干しが意外と高価なので驚くことがあるが、その作業を思えば納得する。

 

薬材としてのウメ

    ウメは中国原産の落葉低木で、雪解けの頃、開花する。花の少ない冬の植物園でウメの花が咲き始めると、春の息吹を感じ、他の植物の芽生えが心待ちになる。ウメはバラ科の植物で、アンズ、スモモ、モモ、アーモンド等と仲間である。万葉集にも数多く詠まれ、昔から好まれた植物であることがうかがえる。

図2

少し黄熟したウメの果実

    薬材としてのウメは、未熟な果実を長時間燻してくん製にしたものを、色が黒いことから生薬名「烏梅(ウバイ)」という。食あたり、下痢止め、鎮咳などに用いる。漢方薬では、杏蘇散などに配剤される。一方、家庭では「梅肉エキス」を用いる。青梅をすりおろし、布で包んでしぼり、搾り汁を弱火でゆっくり煮詰めてエキスにする。青梅1 kgから約20 gの梅肉エキスができる。下痢、吐き気等に利用する。
    未熟なウメ(青梅)を食べると中毒するというが、これはアミグダリンという成分によるもの。アミグダリンは、分解により青酸を生じる。しかし元気のよいウメの実(果肉)にはアミグダリンも青酸もほとんど含まれず、中毒の危険は比較的低い。但し、早落ちした果実には青酸が多いので注意が必要とされる。また種子にはアミグダリンが含まれており、生のウメの種子を大量に食すると青酸が発生して中毒を起こす可能性があるので注意が必要である。

図2

生薬 ウバイ(烏梅)


◆執筆者:天倉吉章氏

松山大学薬学部教授