干し柿とタンニン(執筆者:管理栄養士・体育学修士 河谷彰子氏)

河谷彰子タイトル84

干し柿はお好きですか?1
庭先に干し柿が吊り下がる季節ですね。秋から冬になるな~と感じる光景です。
最近、紅葉狩りへ山梨に行った際にも、干し柿がずらっと並んだ光景を目にしました。
以前、無理を言って、まだ商品になっていない干したての柿を販売して頂き、大切に車に吊り下げて持ち帰った事があります。そう、私は干し柿が大好きです。
干し柿の思い出と共に、色々と調べてみました。

 

干し柿は渋柿を美味しく食べる先人の知恵。

ある年の12/2の朝、『干し柿を作るから、包丁1本と軍手を片方持って、おいで~』1
と電話がかかってきました。
包丁は皮を剥くためですが、何故片手分の軍手も?と思ったのですが、実際に渋柿の皮剥きをしてみると、その意味がよく分かりました。
剥けば剥くほど、軍手は真っ黒。触ってみるとキシキシする感じがします。原因はタンニンです。そう、渋柿の渋みの原因はタンニンです。
タンニンの渋みは、味として味蕾の味細胞がキャッチする情報ではないため、渋味と記載しません。舌や口の中の粘膜のたんぱく質と結合して起こる変性作用(収斂作用)によるものです。
水溶性のタンニンは渋みを感じさせますが、これを不溶性にする事で渋みは無くなります。その渋抜きの方法の1つが干し柿にする事です。この事を発見した昔の人ってすごいですね。
渋抜きとは言うものの、タンニンが無くなる訳ではありません。
果実は皮を通じて呼吸をしますが、呼吸が出来なくなると、柿の中にアセトアルデヒドが蓄積され、これがタンニンと結合して不溶性のタンニンとなります。渋柿の場合、皮を剥いた後に干されて周りが乾燥して呼吸が出来なくなるとエタノールが発生し、これがアセトアルデヒドに変化するというメカニズムです。
渋抜きの方法は、他にも焼酎に漬ける・二酸化炭素(ドライアイス)を充填させた袋に入れる等がありますね。

タンニンと貧血予防。

タンニンは鉄分と結合するとタンニン鉄となり、水に溶けにくく、腸からの鉄の吸収1
を妨げてしまいます。そのため貧血の方の場合、食事前後30分のコーヒー・紅茶・緑茶は控えた方が良いとされています。
タンニンはポリフェノールの1つで、柿の他にお茶類や赤ワインにも含まれています。
貧血の方の場合は、お茶以外にも、食事中の赤ワインも控えた方が良いのかもしれませんね。
では干し柿は?と言うと…タンニンが不溶性になっているから、気にしなくて良いと私は考えています。

タンニンと鉄分の結合を使用した染物があります。今年の夏に百貨店の催事場で1
奄美大島の泥染めを体験しました。
テーチ木という木からタンニンを取り出し、空気に触れるように揉み込んだ後、鉄分を多く含む泥でタンニンをタンニン鉄にする染め方です。
ちなみに、私が作ったカバンの茶色部分はタンニンのみの色で、黒くなった部分はタンニン鉄の色です。
私は血液検査で貧血気味の事が多いので、食事で鉄分をとるように気にしています。いつもは“タンニンめ~”と思っているのですが、こうしてタンニン鉄を楽しむ事が出来て、不思議な感じがしました。

干し柿の栄養は、基本的に柿の水分が抜けた状態なため、柿と同様にカリウム・ビタミンAは多いのですがビタミンCはほとんど無くなります。
干されている分、カサが小さくなりますが、柿1個分のエネルギー量・炭水化物量と干し柿1個分のエネルギー・炭水化物量は同じです。ダイエット中の方は、食べすぎに注意しましょうね。果物はデザートの位置づけで!ですよ。

 


◆執筆者:河谷彰子氏

管理栄養士
(公財)日本ラグビーフットボール協会 セブンズ  アカデミー栄養アドバイザー
慶応義塾大学非常勤講師

日本女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻、筑波大学大学院で体育研究科コーチ学を専攻後、運動指導及び栄養カウンセリング、食サービスの提案を行う、ジュニアユースからトップチームまでのJリーグ選手やラグビー選手への栄養アドバイスを行う。

URL:http://www.kouenirai.com/profile/2448.htm