コロナ太り


 緊急事態宣言中、とても心配していたことが、中高齢者の体力低下と生活習慣病の罹患者が増えてしまうのではないかという事でした。
 整形外科で月2回ほど栄養相談を実施しているのですが、その栄養相談中に私が観察している事と、健康のために気を付けたい事を今回のテーマにしたと思います。

体重・体脂肪から想像する事。
 整形外科の患者様なので、栄養相談のテーマは、おおよそ“体脂肪を落とし、筋肉(筋力)をつけて、関節等の負担を落としたい。”です。そのため、栄養相談の初めには体重・体脂肪率を測定します。
 測定しながら、患者様は『最近、こんな事があってね~ストレスで食べちゃったのよね。』『毎日、散歩はしたのよ。でもね…』『コロナ太りよ…』等と、前回の栄養相談から今日まであった出来事を教えてくれます。
 そのような会話と体重・体脂肪量の結果から、私は『確かに、体重が増えちゃいましたね~でも、筋肉が増えて、脂肪が落ちているから、上手に調整していた様子ですよ。』等と返答します。
 そして、前回の栄養相談からの患者様の生活パターンを想像します。
・新型コロナの影響で、これまで通っていた運動施設がクローズになり、代わりに運動をする事をし
 なかった(できなかった)。

・外出すると感染してしまうのではないかと怖くなり、買い物に行くのも控え、宅配サービスを良く
 利用した。そして、その食事内容が良くなかった。

・学校や保育園に行けない孫の面倒をみていたから、一緒におやつを食べてしまった。また食事も子
 供向けになり、これまでよりエネルギー量が増えてしまった。

・元々の整形外科的な問題が再発し、動きたくなかった(動けなかった)。
筋肉量が多少落ちても、若いうちは運動習慣を再開すれば体力と共に戻りやすいですが、高齢になると加齢による影響もあり、筋肉量が減少するのが早いため、運動習慣を取り戻そうとしても、若い人より腰が重くなってしまいやすいため、筋力(体力)を戻す事ができるだろうかと心配です。
 今回のように、外出を制限しないといけない時や天候の影響で外出をしたくない時には、室内で出来る事を新たに検討する必要があります。
 運動!と気負わず、少しでも身体を動かすように心がける事が大切です。さらに楽しければ、より継続につながりやすいでしょう。できれば、全身を大きく動かす事が良いですよ。

・普段、あまり掃除しない部分の掃除をしてみる。(窓ガラスを拭
 く・庭掃除をする。)

・朝のラジオ体操をやってみる。
・ネットで紹介されている運動をやってみる。
・整形外科で紹介された、リハビリ体操は必ず毎日やる。
・お風呂の中で、運動をする。(湯船の中で拍手をする・足を交差
 し、内ももや腹筋を刺激する 等)

・テレビを見ている時、CM中は運動する。
 早めの対策を練る事が、筋力や体力を落とさない為に大切なので、まずは体重を毎朝チェックする事が健康管理の第一歩です。“体重をチェックし、増減の理由を振り返る。”そして対策を練っておきたいところです。

・栄養相談場所の2階に移動するまでに想像する事。
 体重をチェックする場所は1階で、栄養相談をする場所が2階にあり、その移動に階段を使用しています。その移動中も、私は患者様に話しかけ続けます。その理由は、患者様の体調を観察するためです。
 膝に痛みがあると、動作が緩慢になる事は勿論ですが、階段を上る事により集中したいため、会話が途切れがちになる事もあります。又、喋っている時の息遣いにも注目します。
 前回の栄養相談時では気にならなかったのに、今回は随分息が上がっているなと感じると、お散歩を出来なかったのかもしれないと想像します。そして、どの位身体を動かす事ができたかを伺います。
 息が上がっていた方の理由に多いのが、“日課だった10分の散歩が出来なかった。”です。

 私が学生時代、高齢者向けの運動指導をしていた頃の出来事です。
 タケさん(仮称)という80歳のお腹の大きな男性がいらっしゃいました。高齢者10名と、お散歩をしていたのですが、途中振り返ると、タケさんが随分遠く離れた後ろを歩いていました。慌てて近寄ると、随分息が上がっていました。体調が悪い訳ではないようだったので、こう質問しました。
 『タケさん、最近お散歩していますか?』
  すると『最近、歩けてない…』
お散歩をしなかった理由は、体調不良でもなく、特に理由がなかったので、『毎日10分だけで良いから、お散歩を再開しましょう。以前は、皆と同じスピードで歩けていたのに…また、取り戻しましょうよ。お腹も引っ込みますよ。』と伝えました。
 3週間後、再び同じメンバーでお散歩をしました。すると!タケさんは、集団を抜いて、スタスタ随分前を颯爽と歩いていました。
『タケさん、スゴイじゃないですか!お散歩を再開したのですね。』と声をかけると、タケさんは『毎日30分歩いたよ!』と自慢げに答えてくれました。
 これまでは、先頭を歩いていたのに、皆について行けなかった事がショックだったのでしょう。お腹も以前に比べてスッキリしていました。

 高齢者は一度体力を落としてしまうと、戻すのになかなか大変ですが、80歳になっても、体力を戻したタケさんに驚かされたのを今でも鮮明に覚えています。
 “身体を動かしていたけれど、庭いじりだった。”という方もいらっしゃいますが、身体を横にしているよりは身体を動かしていますが、使う筋肉が大きくない場合には、筋量(筋力)も落ちますし、何より有酸素能力(酸素を取り込む能力)が落ちてしまいます。お散歩や自転車のような有酸素運動は、生活習慣病を予防・改善するためにも大切です。
 お買い物ついでに、駐車場を一回りしてみる・お買い物の前に近所を散歩する等、出来る範囲での有酸素運動を継続しておく事は大切です。
 運動施設が通常の営業に戻るには、まだ時間がかかりそうですが、体重がかかると痛みがあるような場合は、水中歩行は体幹の筋肉を刺激するのにも良いですよ。

・栄養相談中の座った姿から分かる事。
 約30分の栄養相談中の患者様の姿勢も観察しています。
 初めは姿勢が良かったのに、すぐに椅子に猫背で寄りかかって座っている場合、もしや!と思い、こう質問します。
 『日中は、どのように過ごしていますか?』
 午前中は家事をしているが、昼食後は昼寝をしており、その時間が夕食の支度をするまでと長かったり、昼寝はしていないが、ソファーに横になってテレビを見ていたりと、身体を起こしている時間が少ないため、体幹の筋力が落ちているのではないかと想像します。
 運動!というと、なんだかハードルが高いですが、常に姿勢を保つように心がける事も、運動としての刺激になります。
 食事も気を付け始めて、さらに定期的に運動を始めたけれど、筋肉量が増えない・体重に変化がない…という方の中には、日中の過ごし方に改善のポイントが隠されているかもしれません。

 皆さんは、コロナ太りをしていませんか?

◆執筆者:河谷彰子氏
管理栄養士
(公財)日本ラグビーフットボール協会 セブンズ女子代表栄養アドバイザー及びアカデミー(男女)栄養アドバイザー
湘南ベルマーレ育成 栄養アドバイザー
慶応義塾大学非常勤講師・上智大学非常勤講師
日本女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻、筑波大学大学院で体育研究科コーチ学を専攻後、運動指導及び栄養カウンセリング、食サービスの提案を行う、ジュニアユースからトップチームまでのJリーグ選手やラグビー選手への栄養アドバイスを行う。
http://www.kouenirai.com/profile/2448.htm