ジュニアアスリートをサポートしている方々へ伝えたい!
色々な年代のアスリートをサポートしている中で “? ?! !!” と感じる事があります。そして“子供たちに、何て事をしてくれたのだ!”と抗議したくなる事も正直あります。
このコラムを通じて、私が感じている切なる願いをお伝えします。
・幼い子には、食事への興味を持たせて欲しいのに…
小学生のスポーツ合宿に帯同した初日の出来事です。
これから夕食という時、お膳を前に一人泣き出してしまった子供がいました。
話を聞いてみると、幼稚園の時に参加した合宿で、コーチから『お代わり必須!全部食べないと、席を立ってはいけない!』と厳しく言われて、吐きながら食べたというトラウマが蘇ってきたと言うのです。
まだ幼い子供たちには、皆で楽しく食事をしたという思い出を作ってあげる事の方が大切ではないでしょうか?願わくば、苦手な物もみんなと一緒だったからチャレンジしちゃった!という思い出があったら最高ですけどね。
・食べる合宿は大反対!
私は“食トレ”という言葉は大嫌いです。スポーツをする上で、食事は大切であり、トレーニングの一部であるとは思っています。しかし、食事だけを取り上げてトレーニングをするというのは間違っていると思います。
『過去に食べる合宿があり、選手自身も食事は大切とは思っているが、食事が重荷になっているようだ。』という親御さんからの相談は少なくありません。
合宿の時だけ、食事量を増やしたって意味はない!
選手の体格が異なるのに、皆で同じ量(それも私には考えられない程の)を食べさせるなんて!
過去に何かがあり、食事を楽しんでいないなと感じる選手には共通点があると感じます。
・食事カウンセリング中の顔・発言に元気がない。
・毎日同じ食材を同じ料理で食べている。
・必要な栄養素はそろっていそうだが、食事全体の色が単調。
そんな選手に私は『何の料理が好き?』と質問します。
ある選手が『食事は薬だと思っているので、楽しみはありません。別にそれで良いです。』と答えました。
なんと…悲しい事を… この選手の過去に何があったのだ… 何とかしなければ!と焦りました。
・短期間での体重増減は、ケガにつながる!
競技によっては有利な体型があり、重い方が良い・軽い方が良い・体脂肪は気にしないといけない…とあります。しかし、短期間での大きな体重変化は、コンディショニングに悪影響を与えます。基本的に体重増加は筋肉で増やしたいですし、体重減少は体脂肪を減らしていきたいです。(種目によっては、最終的に筋肉を減らして体重を軽くすることが求められる場合もある。)
・短期間の体重増加は、脂肪量増加の可能性が大。⇒膝や足首・腰への負担が増え、ケガの原因に。
・短期間の体重減少は、筋量減少の可能性が大。⇒筋力低下につながり、パフォーマンス向上につながらない。
オフシーズン中に『体重を増やして来い!』と指示をする部活もありますが、その目標値が現状の体重と大きな違いがあったら… 心配です。少しでも筋肉量が落ちないように、自宅でもできるトレーニングを指示しておく事も大切ですし、食事に関しても具体的にアドバイスしておくべきでしょう。
体重変化のスピードについて、私は、高校生以上の男子には“月+1kgの筋肉量増加・月-1kgの脂肪減少が順調”、女子には“月+0.5kgの筋肉量増加・月-1kgの脂肪減少が順調”と伝えます。
体重変化の内訳を知るには、体重だけではなく、毎朝の体脂肪率チェックも必要です。毎朝の体重チェックもなしに、体重の増減を指示するのは、おかしくないかと疑問に感じます。
これまでサポートした選手の中で、最も順調に体型変化したサッカー選手(19歳)は、10か月で7.4kgの体重増加で、期間中の体脂肪率は常に一桁でした。(もちろん、筋トレの継続的な見直しと、食事の改善をしています。)
短期間に10kg以上の体重増加を指示するのは疑問です。
・体重を増やして欲しいコーチ VS 増やしたくない選手
サッカー・ラグビー・バスケット等、持久力が大切になるけど、当たり負けもしたくないため体幹等の筋力も必要、でもスピードも大切という種目に多い問題です。
体重を増やしてパフォーマンスを上げて欲しいと考えているコーチに対し、体重を増やすとスピードが落ちてしまうと思い、行動に移せない選手が多くいます。
ウエイトトレーニングの時は、筋量を上げろ!と言い、瞬発力を高めるトレーニングでは、体重が重いから走れないのではないか!と選手に伝えるのは、どうかと思います。増やすの?減らすの?どっちなの?どちらも短期間で成果は上げられないでしょ?と乱暴な指示をされたことを選手から聞いて憤慨しています。
短期間に体重を増やせば脂肪が増えてしまうので、スピードは落ちます。たとえ筋肉で増えたとしてもスピードは落ちます。何故なら、筋肉も“おもり”となるからです。
私は選手にこう伝えます。“筋トレで増やした筋肉は、走るための筋肉とは違うから、一時スピードは落ちる。でも、筋肉で重くなった身体で走るトレーニングをしていけば、走るために必要な筋肉もつくし、持久力も次第に上がる。それには約1か月かかる。だから、1か月はせっかく増やした体重はそのままで頑張ってみない?1か月後に、やっぱりどうしても重いというのであれば、コーチに交渉しようよ。”
プロの選手の中には、色々な体重を試した上で、どの体重が自分のベストパフォーマンスを発揮できるかを決めている選手は多いです。
筋肉量がこれから増えていく年代やウエイトトレーニングを取り入れていく年代で、自分のベスト体重を決める必要はありません。決めたとしてもシーズン目標であり、今後ずっとの目標ではないです。コーチの方々の中には、数年後の目標体重を伝えてしまう方がいらっしゃいますが、その値は胸に秘め、選手には、今年の目標を伝えるべきではないでしょうか?実施可能な・手の届きそうな目標を伝える事は大切だと感じます。
・体格はゴールではなく、スタートライン!
ある部活にスポーツ栄養についての講習会を頼まれた時の出来事です。
部活の先生が“あいつの太ももを見てください。良い太ももをしているのに、動きがぎこちなくて、パフォーマンスが良くないのですよね…”と言われました。
よく話を聞いてみると、先生は“良い体型=高いパフォーマンス”と考えていらっしゃるようでした。
『選手のぎこちない動きを動画に撮って、選手自身にお見せした事はありますか?見せたことがないのに、動きがおかしいと指摘するのは、選手が可哀そうです。選手自身が客観的に動きを見て認識し、おかしい部分をどのように改善したら良いかを具体的にアドバイスし、そのトレーニング方法を教えてあげてはいかがでしょうか?』と管理栄養士という枠を越えてお伝えしてしまいました。
選手に、下記のスライドを見せたことがあります。
・高いパフォーマンスを目指すための基本に基礎体力がある。
・その一端を担っているのが食事。
・食事の精度も色々あるが体重で測れる部分と測る事ができない部分がある。
・食事の精度を少しでも高める事がパフォーマンスの基礎部分を広げる事ができ、積み上げられるものが高くなり、高いパフォーマンスにつながる。
つまり、パーフェクトな食事をし、体型が完成したらからと言って、ゴールドメダルが獲れるわけではありませんよね。
食事にはゴールはなく、今必要な事を少しずつ継続して精度を上げていく必要があります。
選手自身が“勝ちにこだわる”事は大切ですし、そのために、周りの大人がどのようにアドバイスするかはとっても大切だと感じます。過去に自分がされてきた(かもしれない)乱暴な・無謀な指示の無限ループは断ち切りませんか?
大きな目標は“優勝!ゴールドメダル”かもしれませんが、すぐに実施して欲しいアドバイスは、少し手を伸ばせば出来そう!と感じさせることであって欲しいなと切に願います。
今回のコラムと重なる部分もありますが、以前のコラムもご参考にしていただければと思います。
(食事アドバイスは“もっと食べよう!”より… https://www.shirokawa.jp/column/kawatani_akiko/3420/)
◆執筆者:河谷彰子氏
管理栄養士
(公財)日本ラグビーフットボール協会 セブンズ女子代表栄養アドバイザー及びアカデミー(男女)栄養アドバイザー
湘南ベルマーレ育成 栄養アドバイザー
慶応義塾大学非常勤講師・上智大学非常勤講師
日本女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻、筑波大学大学院で体育研究科コーチ学を専攻後、運動指導及び栄養カウンセリング、食サービスの提案を行う、ジュニアユースからトップチームまでのJリーグ選手やラグビー選手への栄養アドバイスを行う。
URL:http://www.kouenirai.com/profile/2448.htm