食育は根付いているのか?と感じる今日この頃です。

河谷彰子タイトル123


 食育は、子供も大人にも大切だなと感じています。
聞いたら笑ってしまうような話題も、見方を変えるとハッとする事があるのでは?と感じています。
 大学での授業で学生に食育の大切さに気づいて欲しいなと思い、色々な仕掛けをしています。その例に触れながら、食育について考えてみたいと思います。

・魚の切り身が海を泳いでいると思っている子供がいる!
 このような子供がいるという話は、聞いたことがありますか?
 私は小学生2年生まで、グリンピースはソーセージのように食べられるケースに、芋等のでんぷんをすりつぶしたものを詰めている工場で作られている食べ物だと思っていました。
 忘れもしませんが、グリンピースが夕飯に出てきた時の私と母の会話です。
  私 「グリンピースを作っている人は大変だね。」
  母 「なんで?」
  私 「だって、こんな小さな丸いケースに、芋を潰したものを1つずつ詰めるのって、工場の人は大変じゃない?」
  母 〝!!〟「グリンピースは工場で作っているのではないのよ。」
  私 「そうなの?」
 当時、私は冷凍食品のミックスベジタブルに混ざったグリンピースしか見たことがなかったので、工場で作られている食べ物だと勝手に想像していたのです。そして、こんな小さな食べ物を苦労して作っている人がいるのに、周りにグリンピース嫌いな友達が多くて、作っている人がかわいそうだな~なんて思っていたのです。

 これと同様、切り身の魚しか見ていなければ、そう思っても仕方がないですよね。

 学生に切り身が海を泳いでいると思っている子供がいるという話を伝えると、学生は笑っています。
 そこで、私はすかさず
 「パイナップルって、どのように実っているか知っていますか?」と質問します。
 「木になっている。」とリンゴのように、手を高く上げて収穫するジェスチャーをする学生が多いです。
 これまで答えることができた学生に会ったことがありません。(きっと、沖縄出身の学生や、親戚が沖縄にいらっしゃる場合は、知っている確率は上がるでしょう。)
 そこで、「ネットで調べてみると良いですよ。驚きの姿よ!」と伝えます。
 学生からは〝衝撃的だった!〟〝想像を遥かに超えた姿だった!!〟等と感想をもらいます。

 私は〝見たことがない事は知らないし、興味がなければ知ることが出来ないですよね。〟と伝えます。

・トマトケチャップはトマトから、どのように作られるの?
 〝ジェイミー・オリヴァーのスクール・ディナー〟という2005年(英)のドキュメンタリー映画のワンシーンを見せた日のことです。
 映画では、子供たちに野菜の姿を見せても何かが分からず、トマトを見て〝ポテト!〟と答え〝トマトケチャップの材料だよ。〟と伝えると〝トマトケチャップは知っているよ。〟と子供たちは答えています。
 学生は、子供たちが野菜を知らなさすぎる事に驚き、そして笑っています。
 そこで、私はすかさず
 「トマトケチャップは、トマトの他に何を原材料にして、どうやって作るの?」と質問します。
 なかなか答える事ができる学生はいません。
 私はこう伝えます。
 「色々な加工食品が便利に手に入るけれど、何が使われているのかも知らないで食べているって、よく考えると怖くない?」
 そして
 「トマトケチャップを作って欲しいとは思わないけれど、何が使われているのかな?って思ったら、原材料名を見たら良いですよね。色々な加工食品の原材料をチェックすると、この料理は自分で再現できそうだ!と思えるものがありますよ。」
 学生からは〝言われてみれば、何から作られているのか知らないで食べているなと感じた。〟ネットでトマトケチャップについて調べた学生からは〝お酢を使っているとは思わなかった。〟等と感想をもらいます。

 私は〝便利な世の中を上手に利用することは勿論問題ないけれど、口にするものの情報を知らないって、よく考えると怖い事ではないかな?〟と伝えます。

・魚は捌くけど…
 〝いのちの食べかた〟という2005年(独)の映画のワンシーンを見せた日のことです。
 養豚場から運ばれた豚が屠殺され、肉の部位に切り分けられていくシーンを見せると、学生から〝しばらく肉が食べられなくなりそう…〟〝なんて気持ち悪い映像を見せてくれたんだ!〟という感想もあれば、〝まさに命をいただいて私たちは生きているって感じた。残食しちゃいけないな。大切に食べようと思った。〟という学生もいます。
 私はこのように返します。
 「魚も肉も一緒よね。魚は自分で捌くことがあるけれど、肉だって一緒。誰かが捌いてくれているから私たちは肉を食べる事が出来るのよね。豚が精肉になっていく過程が気持ち悪いと感じるのは、見たことがないからよね。私たちが普段食べている食品が、どこで作られて、どのような過程を経ているのか?そこが分かると、より安い物を買おうという気持ちから何か変化があるのではないか?そうすると生産者は安さだけを追求しなくなり、食品偽装等の事件は減るのではないか?」と伝えます。

 私自身、食について知らないことはいっぱいあります。ただ、疑問に思ったことは、調べたり、聞いたりして、知るようにしています。食育として大切な事は、伝えたい相手の食への興味を高める事から始まるのではないかと感じています。
 食育を伝える側は、五大栄養素を語る前に、五大栄養素を知りたくなる仕掛けが大切なのでは?
 健康のための食事を伝える前に、健康への興味を高める仕掛けが大切なのでは?
 等と、ブツブツ考えています。

 

 

◆執筆者:河谷彰子氏
管理栄養士
(公財)日本ラグビーフットボール協会 セブンズ女子代表栄養アドバイザー・サクラフィフティーン女子代表栄養アドバイザー・アカデミー(男女)栄養アドバイザー
慶応義塾大学非常勤講師・上智大学非常勤講師
日本女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻、筑波大学大学院で体育研究科コーチ学を専攻後、運動指導及び栄養カウンセリング、食サービスの提案を行う、ジュニアユースからトップチームまでのJリーグ選手やラグビー選手への栄養アドバイスを行う。
URL:http://www.kouenirai.com/profile/2448.htm