身近なくすり(3)(執筆者:松山大学薬学部教授 天倉吉章氏)

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(1)柑橘由来生薬

    愛媛といえば“ミカン”と返ってくるほど、ミカンをはじめとする柑橘のイメージが強い。実際、愛媛で生活すると、スーパーに並ぶ柑橘類の多さに驚き、柑橘生産県で、生活に密接した果物であることを実感する。全国でみても、最近は冬場をこたつで過ごす家も少ないようだが、“こたつの上にミカン”と浮かぶように冬の果物として欠かせない。ビタミン等豊富で、栄養水分補給、かぜ予防を期待して食することも多い。
    日本産のミカンの代表品種はウンシュウミカン。一般にミカンというとこれを指す。中国伝来の柑橘から日本で偶発実生により出来た品種で、中国浙江 省の温州(中国ミカンの産地)の名を借りたもの。それゆえ、直接関係はなく日本原産とされる。果皮は精油をたくさん含み、その主成分がリモネンという香り 成分。その他、ポリメトキシフラボンやヘスペリジンなどのフラボノイドも豊富に含有する。このウンシュウミカンの皮を干したものがチンピ(陳皮)という名 で日本薬局方に収載され、歴としたくすりとして使用されている。“えっ!ミカンの皮が?”と思う人もいるかもしれないが、補中益気湯、釣藤散、香蘇散、神 秘湯など、健胃、鎮痛、咳止め、解毒薬等として種々の漢方薬にこのチンピは配合されている。「陳」皮の名のとおり、古いものがよいとされるが、あまり古く なって黒くなったものは精油成分も少なくなっており、日本薬局方品としては使えない(日本薬局方では、精油の量が規定されている)。

柑橘写真

    柑橘を基原とする生薬として、日本薬局方には他にトウヒ(橙皮)、キジツ(枳実)という名の生薬も収載されている。トウヒはダイダイの果皮、キジツ はダイダイ又はナツミカンの未熟果実を基原とする。いずれも健胃薬として漢方薬や種々の胃腸薬に配合されている(実は気づかずにその恩恵を受けている人も 多い)。これら以外にも、中国、日本で出回っている柑橘生薬は主なものだけで基原が20種類以上もあり、花、果実、果皮、葉等、様々な使い分けをして利用 されている。
 

(2)グレープフルーツジュース

    柑橘の話では、グレープフルーツジュースと医薬品の相互作用についても知っておく必要がある。グレープフルーツジュースにはベルガモチン等のフラ ノクマリンという化合物群を含むことがわかっており、これらはくすりを代謝する酵素の働きを阻害し、くすりの作用を増強(効きすぎになる)する思わぬ副作用を引き起こすことがある。この成分はミカンにはほとんど検出されない。くすりの服薬指導で、「グレープフルーツジュースと一緒に飲まないでください」と あるのは、そのためである。


◆執筆者:天倉吉章氏

松山大学薬学部教授