食育は家庭から3(執筆者:管理栄養士・体育学修士 河谷彰子氏)

河谷彰子タイトル44

食育と言うと、どのような事をイメージされますか?1
私の人生を振り返ると、家族から色々な事を教えてもらっていたと感じます。
そして思い出の多くは幼稚園児の頃だったような気がします。(写真はその頃の写真です。)

ベランダで作ったイチゴの思い出

祖父はたくさんの植物を庭や室内で育てていました。そして1つだけ食材を発砲1
スチロールの箱で育てていました。それがイチゴです。
その苗を分けてもらい、我が家でも発泡スチロールの箱で大事に育て、毎年実がなるのを楽しみにしていました。
と~っても小さなイチゴしか実らないのですが、実を付けてからは毎日観察し、祖父の苗と我が家の苗を見比べては、育ち方に何故違いがあるのかと疑問に思った記憶があります。1
実が熟すと大事に大事に1日数粒、その甘酸っぱさを噛みしめていたのを今でも思い出します。
スーパーで売っているイチゴを見ても美味しそうとしか思いませんが、イチゴの苗を見ると今でも、あの頃の思い出が蘇り、思わず苗を買ってきてイチゴを育てたくなります。

 

お皿洗いと祖母との思い出

夕食後には、ごみ箱を踏み台にエプロンをつけてお皿洗いをする事が私の日課1
でした。
母は、隣でお皿をゆすいだり拭いたりしながら、私がしっかり洗っているかをチェックしていた事でしょう。(記憶にはないのですが、お皿洗いは楽しいながら、いつも少し緊張していた印象があります。)
祖母が遊びに来ていたある日、いつものようにお皿を洗っていると、祖母が後ろからじっと眺めていました。いつも以上に緊張しながらお皿を洗っていると、ツルッと手からお皿がすり抜けガッチャーン!お皿を割ってしまいました。
“怒られる!”と思った私は肩をすぼめていたか、泣いていたか…。
チロッ~と祖母の方を振り返ると“割ってしまったお皿は、もうしょうがない。もう割らないように、どうやったら良いのかを考えようね。”と私に話しかけてくれました。
“そうなの?怒らないの?”その意外な言葉に非常に驚いた事を今でも鮮明に覚えています。
今思い出しても祖母はさすがだ!と感じます。

 

メチャクチャ料理と父との思い出

家事を全くしない父ですが、母が外出した日曜日に、父と料理をしたことが2~31
回程ありました。
どの料理もメチャクチャ料理。食材の組み合わせも味付けもメチャクチャ。
炒めもの風の料理にたくあんが入っていたり、ポテトチップスを作ろうとしたのか、ジャガイモを揚げて(低温油過ぎて、出来上がりは油ギトギト&シナシナ)砂糖をまぶした物等、美味しいとは良い難い料理ばかり。
“美味しい?”と父に聞かれても決してウンとは言えませんでしたが、何だかワクワク楽しかった記憶はあります。(帰宅した母は味見して、絶句していましたが…)
母が食べられる味に修正してくれた事もあり、やっぱり料理はお母さんだな…なんて、子供ながら感じた事も覚えています。

 

脳の発達と子育て

食育基本法の成立にも関わられた服部幸應先生のお話を数年前に伺う機会がありました。
立派な子供達を育てるには、託児所の充実化よりも育休の充実化だと。
何故なら、託児所で他人に育てられるよりも、お母さん自身や旦那様家族に育ててもらう事で、似たようなモラル(自分が良しとするモラル)を身に付ける事が出来るから。
以下はその時の河谷メモです。

その時期でないと覚えられない事があり、立派な人間を作るには、食卓でのしつけ・コミュニケーションが大切。これは、脳の発達と深い関連がある。
0~3歳:脳がまだ小さいため、愛情で教えてあげる事が大切。つまり親子のスキンシップが大切。
            ⇒ハグ・ボディータッチ・子守唄を歌ってあげる・絵本の読み聞かせが大切である。
                                          (40年前の1/3に!)
3~8歳:小脳(本能)が完成 大脳(特に前頭葉)が発達。
      好き嫌いが出てくる。人間関係から色々な事を学ぶ。作法を身に付け始める時期
      8歳までにしつけないと、人間になれない! 70%のモラルが形成される時期。
      “つ”がつくまでの歳(つまり9歳まで)に、食事の基本を伝えなければいけない。
8~10歳:脳は10歳で完成
       好奇心が強くなり、自分で考えて質問して、答えてもらった事は理解できるが、それ
      以外の事は反発するようになる。
      2~3歳、年の違う子と遊ばせる経験が大切。そうしないと大人になれない。
8~14歳までに、学校や地域社会で90%のモラルが形成される。
      それまでに、しっかりとしたモラルが身に付いていないと“しつけ”は、もう遅いんです!

 

とあるサッカー教室でのお母様が教えて下さった事

スポーツ教室に通う子供達には、教室後におにぎりを食べよう!と私は勧めています。1
そして子供達に食事についてセミナーを実施する際には、年代ごとにアプローチを変えるようにしています。特に小学校低学年までは親子セミナーにしています。
スポーツ頑張っている子供達には、●●を食べよう・嫌いな野菜には、強くなれる栄養素が含まれているという話もしますが、食事や食材に少しでも興味を持ってもらおうと、私なりにアレコレ工夫をしています。
とあるサッカー教室でセミナーを実施した数か月後、5歳のお子様を持つお母様から、こんなコメントを頂きました。

サッカースクールに入って8ヶ月が経ちました。その期間、色々な変化1
がありました。

息子の変化:食事量が増えた。

スクールに入る前は“食”自体に興味が無かったのか、食事量が少なく、スピードも遅くて渋々食べていたようでした。そのため、サッカースクール後におにぎりを食べることで、さらに夕飯が食べられなくなるのではないかと心配していました。
でも現実は違いました!ご飯量が増えたのです!!さらに食べる事が好きになったようです。
また、ご飯をよく噛んで」味わうようになったためか、ふりかけを使う量が減りました。
先日のセミナーに出席してからは、自分が苦手だった食べ物を“サッカーが上手くなるから”と買い物では率先してかごに入れ、家でしっかり食べています。

私の変化:食材の選び方が変わった。

これまではスーパーでの買い物が多かったのですが、最近は子供と八百屋や魚屋など個人商店に行って一緒に買い物をするようになりました。
お店の人に旬の食材を聞いたり、ちょっとしたアドバイスをもらってコミュニケーションをとるのが子供も楽しいみたいです。
改めて食事の大切さを実感し、毎日の食事作りにも気合が入ります。
野菜選びや味付けで「これは苦いから子供は食べないかな?」「大人向けの味付けだから食べないかな?」などと先入観を持っていましたが、意外と何でも食べるものですね。これからは色々な食材を使って、レパートリーをちょっとずつ増やしていきたいと思います。

セミナーで、スーパーではなく個人商店に行きましょう!とお伝えした訳ではないのですが、お母様自身が子供の変化に気づき、喜んで下さった事が私自身の喜びだった出来事でした。

 

年齢を問わず食育では!

管理栄養士としてお仕事をしていると感じる事。
“普通にご飯を食べています。”の普通ほど、当てにならないならない事は無いという事。

ちょっと話が横道に外れますが…
『肉買ってきて~』と頼まれたら、何の肉を買ってきますか?
肉の消費金額を比較すると、地域によって異なります。
   豚肉の消費金額が多い地域1
      北海道・東北(山形県を除く)・関東(東京都を除く)・長野県・山梨県・新潟県・
      静岡県・鹿児島・沖縄地方
   牛肉の消費が多い地域
      山形県・東京都・北陸甲信越(長野県・山梨県・新潟県除く)・東海(静岡県除
      く)・関西・中国・四国・九州(鹿児島除く)地方
これは、歴史的・文化的な背景による違いです。親から子へ脈々と伝わった文化・習慣の証です。

肉じゃがの肉は牛肉・豚肉、どちらを使用しますか?我が家では、豚肉を使用します。
あたり前でしょ?と思う方と、牛肉じゃないの?と思う方がいらっしゃるでしょう。
だから“普通にご飯を食べています。”の普通は当てにならないと私は感じているのです。

私の家族が私に食育をしようと色々な事をしてくれたかどうかは不明ですが、私の心にはその1つ1つの思い出がしっかりと刻まれています

食習慣は親から子へ伝えていって欲しいのですが、もし大人が間違った習慣を1
当り前と思っていたり、メディアによって偏った習慣を身に付けてしまっていたら…それは修正しないといけないのではないでしょうか。
だから私は、食育は子供にも大人にも必要なのではないかな?と感じています。

 


◆執筆者:河谷彰子氏

管理栄養士
(公財)日本ラグビーフットボール協会 セブンズ  アカデミー栄養アドバイザー
慶応義塾大学非常勤講師

日本女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻、筑波大学大学院で体育研究科コーチ学を専攻後、運動指導及び栄養カウンセリング、食サービスの提案を行う、ジュニアユースからトップチームまでのJリーグ選手やラグビー選手への栄養アドバイスを行う。

URL:http://www.kouenirai.com/profile/2448.htm