えひめの栗(執筆者:松山大学薬学部教授 天倉吉章氏)
秋の味覚の一つに栗がある。愛媛と聞くと柑橘のイメージが強いが、柑橘以外にも主生産県の素材がいくつかあり、栗もその一つ。あまり知られていないかもしれないが、愛媛県の栗の収穫量は、茨城県、熊本県に次いで、国内3位の収穫量(1,540 t)を有している。1)
栗はブナ科の落葉高木の果樹で、縄文時代から食されてきたといわれている。よって、日本の食糧としての歴史は古く、生活に関係深い存在であったと伺える。栗と言えば、いわゆる甘栗をイメージする人も多いが、甘栗として代表するものは中国産のもの。その他、アメリカ産、ヨーロッパ産のもの等、タイプは異なるが世界でこよなく食されている。それぞれの種類に個性があり、その特徴により用途も異なってくる。
栗について、渋皮部分については多くの成分研究がされており、主にタンニンというポリフェノール類を含有することが知られている。可食部分である果肉には、主成分としてデンプンを含み、他にビタミンやミネラル等を豊富に含むことが知られているが、意外にもその他の成分に関する報告はほとんどみられない。
我々の研究グループでは、この愛媛特産の栗を研究素材として着目し、摂食される果肉に含まれる成分解明を目的に、県内産和栗の果肉含有成分について検討することにした。栗を蒸して果肉部のみをとり粒状にし、含有成分について解析した結果、ポリフェノール類を中心とした約10種類の化合物の存在を明らかにすることができた。2) 中でも注目すべきところは、緑茶等に含まれるカテキン類に糖(グルコース)が結合した構造をもつ化合物〔catechin 7-O-glucoside (1),epicatechin 7-O-glucoside (2)〕。カテキン類は天然生理活性成分としてよく知られているが、その配糖体に関する報告は極めて少ない。また、これら配糖体の量は他の単離した成分と比較して多く、栗特有のキー化合物として注目している。今後,栗特有成分として、これら配糖体を指標にした活性試験等を実施する予定にしている。このアプローチにより、栗の未知なる機能が明らかになるかもしれない。
1.平成26年度農林水産省統計データ
2.山田梨愛,好村守生,吉田隆志,天倉吉章,愛媛県産日本栗の果肉に含まれる成分研究,第53回日本薬学会・日本薬剤師会・日本病院薬剤師会中国四国支部学術大会,2014年11月.
◆執筆者:天倉吉章氏
松山大学薬学部教授