父と大根(執筆者:管理栄養士・体育学修士 河谷彰子氏)
年末に実家に帰ると、何やら両親がもめていました。
「大根がこんな小さいのはおかしい!」と母。
最近、趣味で野菜を育てるようになった父が持ち帰った大根の長さが、あまりにも短くてブツブツと文句を言っていたのです。
「持ち帰るのに重いから、青い部分は畑の肥やしにしてきた!」と胸を張って言い切る父。
「青い部分が一番美味しいのに!なんで!」と母。
「葉っぱには、カルシウムが多いのに勿体無い。」と私。
知らないって、ホント・・・と笑ってしまった事件でした。
大根は淡白野菜・大根の葉は緑黄色野菜
胚軸(茎の部分)~根が大根です。境目は、ヒゲ根の無い部分は胚軸が肥大した物です。畑で植わっている時、土の上に出た部分が胚軸です。父は胚軸部分を切り落としてきたのでしょう…。
緑黄色野菜の定義はβ-カロテンが600μg/100g以上ある野菜です。β‐カロテンは、抗酸化力や粘膜を健康に保つ効果があるため、風邪予防やがん予防・抑制効果が期待できます。大根の葉は立派な緑黄色野菜ですし、かいわれ大根も緑黄色野菜という事になりますね。
はつか大根の赤い部分には、アントシアニン(抗酸化作用)を多く含みますが、大根とはつか大根は葉も根の部分もアントシアニン以外は同じような栄養成分です。(大根の中にも紅くるり等、アントシアニンを含むものもあります。)
切り干し大根にはカルシウムが多い食品の1つとして紹介される事がありますが、
栄養成分は100g当たりを表記する事が多いため、100g分の切り干し大根を料理して食べようと思うと大変です。一方、大根の葉は随分とカルシウムが多いと言えます。
お浸しや胡麻和えにしても美味しいですし、湯がいて乾煎りして、しらす干し・胡麻・醤油とさらに合わせると、カルシウムたっぷりのふりかけになります。
ビタミンCは大根の中心部分より、皮に近い部分で多くなります。ビタミンCをとりたいという方は、皮は剥かない方が良いですね。(ただし、辛味成分も多い。)
大根は消化酵素を含んでいる
大根はジアスターゼ(でんぷんの分解を促進する消化酵素)を含んでいます。そのため消化を助けると共に、胃腸の働きを整える効果があります。熱に弱いため、大根おろしのように生で食べる方法がジアスターゼの働きが十分発揮されると考えられます。また酸化されやすいため、ジアスターゼ効果を得たい場合は食べる直前に大根おろしを作るのが理想です。
“大根おろしを使って水飴作れる!”ってご存知ですか?
水でといた片栗粉を電子レンジでチンしてノリ状にした物や芋粥を冷ました物に大根おろしを混ぜて、しばらく置いておくと(芋粥の場合は発泡スチロールに入れて約5時間保温)、でんぷんが糖化しサラサラになります。これはでんぷんがジアスターゼにより麦芽糖になった証拠です。煮詰めると水飴になります。
そこで色々と疑問が湧いてきました。
七草粥に入れる1つ“すずしろ”は大根の葉です。
七草粥は正月に疲れた胃腸を休める・強い生命力にあやかって体内に取り入れる事で、万病から身を守ろうとした風習です。七草は6日に積んで7日の朝に調理する・歌いながら、できるだけ大きな音をたててまな板をたたいて刻むのが習わしだそうです。
ジアスターゼ効果を得るには、七草は冷めてから入れるべきではないか?
前日の七草を積むタイミングは、夕方が良いのではないか?(朝取り野菜は美味しいか?https://www.shirokawa.jp/column/kawatani_akiko/2486/)
そこで調べてみると、七草粥は中国の風習が平安時代に日本に渡来し、江戸時代に将軍が食べるようになって定着したようです。平安時代では七種粥と漢字が異なり、7種類の穀類(米・粟・黍・稗・胡麻・小豆等の七種の穀物)の粥だったそうです。
ジアスターゼ効果は後付けなのかな?と考えていたら、七草粥は1つの風習として何も考えずに頂こうと思いました。
大根の辛みアレコレ
大根のひげ根の列が綺麗に真っ直ぐに並んでいる方が辛くありません。
大根おろしの辛み成分“イソチオシアネート(芥子油)”です。根の先端に行くほど量は多くなり(葉に近い部分の約10倍!)辛くなります。若い大根ほど、イソチオシアネート量は多く、成長するにしたがって減っていきます。
辛味を作り出す成分 “酵素ミロシナーゼ”は、大根の皮に近い部分の“形成層”に多く含まれているため、外側だけをおろせば辛い大根おろしに、内側だけを使えば辛くない大根おろしを作る事が出来ます。(下の方が辛いのは、下の方が形成層が厚くなるからです。)
ヒゲ根が真っ直ぐに並んでいない時は、畑の土が硬くて根をねじ込ませながら生長したため、形成層が密になっているため、辛くなるのではないかと考えられます。
おろして3分後までは辛みは少ないですが、この酵素の働きにより6分後に辛みのピークをとなって、その後少なくなります。
大根おろしが臭くなるのは酵素による物ですが、50℃を越えると臭みを作り出す酵素が抑えられます。おろしたてを直ぐに加熱すると、臭みは出ずに大根おろしの甘みが楽しめます。また50~70℃で加熱すると酵素の働きで最も甘くなります。
牡蠣を洗う時は、大根おろしを使うと汚れがよく取れる事は有名ですが、その他に筍のあく抜きに大根おろしのおろし汁を使うと良いそうです。
(ためしてガッテン 2009年1月14日放送よりhttp://www9.nhk.or.jp/gatten/archives/P20090114.html)
大根おろし1つとっても、奥深いですね。。。
私は、大根の葉の根っ子を水につけて、葉っぱを育てる事があります。日々生長する姿に力をもらえる感じが好きなのと、味噌汁の具等、少量を使いたい時に便利だからです。ある日、いつもとは違う1本の茎があり、花を咲かせました。そう、大根の花です。
大根の花までも楽しめるのですから、次回は是非、大根を丸ごと持って帰ってきて欲しいと父には伝えたいと思います。
◆執筆者:河谷彰子氏
管理栄養士
(公財)日本ラグビーフットボール協会 セブンズ アカデミー栄養アドバイザー
慶応義塾大学非常勤講師
日本女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻、筑波大学大学院で体育研究科コーチ学を専攻後、運動指導及び栄養カウンセリング、食サービスの提案を行う、ジュニアユースからトップチームまでのJリーグ選手やラグビー選手への栄養アドバイスを行う。