アスリートに学ぶ、水分補給方法(執筆者:管理栄養士・体育学修士 河谷彰子氏)
真夏の昼食時、あるプロサッカー選手が水の入ったコップをピッチャー
の後ろに隠して食事をしていました。自分で持ってきたコップなのに、なんで隠しているのかが不思議だったので質問をすると『水を飲むと、食欲が落ちて食事量が落ちちゃうから。。。』と教えてくれて、笑ってしまったのですが、それと同時になるほど!と思いました。
暑い時期の水分補給は、アスリートのみならず大切ですが、そのとり方にはいくつかポイントがあります。プロアスリートが工夫をしている事を例にお話しして参ります。
1日を通して、水分補給を欠かさない。
アスリートにとってトレーニング中の水分補給は熱中症予防やパフォーマンスを
落とさないためにも大事ですが、一日を通して水分補給を欠かしません。あるラグビーチームでは、常に水が入ったボトルを持ち歩くよう指示があるくらいです(ミーティング時も)。なぜなら、一度にたくさんの水分を吸収できないためです。とりすぎた水分は尿となって排泄されるため、とりすぎは問題ありません。(水分制限を医師から指示されている場合は除く。)
水の種類はなんでも良いです。日本国内であれば、ミネラルウォーターである必要はありません。ミネラルウォーターを飲むというのであれば、自分にとって飲みやすい物が良いでしょう。特に海外のミネラルウォーターで硬度(カルシウム・マグネシウム量で決まる)が高い物は、飲む習慣のない方にとっては、下痢の原因になり、水分補給にならないので注意です。
運動前後の体重差は2%未満が目安。
トップアスリートは起床後の排尿後・トレーニング前・トレーニング後・就寝前と一日
に何回も体重測定をしています。特に暑い時期はトレーニング前後の体重変化に敏感です。
なぜなら、トレーニング後の体重がトレーニング前と比較して大きく減少している場合は、運動中の水分補給量が少なかった事を表しており、毎日少しずつ水分補給不足が続くと、熱中症を引き起こしてしまうからです。
熱中症は体重の3%以上の水分が排出されると良くない症状が起こるため、体重減少は2%未満になるよう気にする必要があります。
気にしていても水分補給量が少なかったという場合もあります。そういう時は、いつもより食事量やトレーニング時以外の水分補給を積極的にとることが大切です。
あるプロサッカー選手が、一度食堂を出て行ったのに、ごはんをおかわりしに戻ってきました。理由を聞くと『体重がまだ少なかったから』と教えてくれました。体重に敏感になるという事は、ダイエットのみならず、特に暑い時期は大切だという事です。
一方学生アスリートの中には“夏は体重が落ちて当たり前”と思っている方も多くいらっしゃいます。トップアスリートの体重管理を見習って欲しいなと感じます。
運動後はスポーツドリンクを控える。
一流チームでは、トレーニング中の水分補給に、基本的に水を用意しています。そして、スポーツドリンクのみという事はありません。スポーツドリンクを用意する時は必ず水も用意しています。
通常、1.5時間未満の運動では水分補給は水で良いとされています。大量に汗をかく運動時や季節はスポーツドリンクから水分補給と共に塩分補給をする必要があります。(参照:夏は汗をかくから塩分をとった方が良い?https://www.shirokawa.jp/column/kawatani_akiko/272/)
屋外競技では特に、水は飲む以外にも、首や頭にかけて体温を下げる役割があります。スポーツドリンクだけでは、かけづらいですよね。
アスリートの水分補給方法を観察していると、ガブガブガブではなく、スクイーズボトルを一押しという感じで
1~2口を飲んでいます。そして、水だけの時とスポーツドリンクと水の両方の時があります。スポーツドリンクを飲んだ後は水を飲んでトレーニングに戻ります。その理由は口の中にスポーツドリンクの糖分が残っていないように、さっぱりさせるためです。
トレーニング後はなるべく早いタイミングで食事をしますが、食事までの時間は水分補給をしても水です。スポーツドリンクには糖分(炭水化物)は含まれていますが、たんぱく質やビタミン類はあまり含まれていません。食事から栄養補給する事で、色々な栄養素をとる事ができ、疲労回復にもつなげる事ができます。そのため、運動後の水分補給には糖分が含まれていない物、つまり水で十分なのです。
学生アスリートの中には“喉が渇いた~”と言って、ジュースやスポーツドリンクをがぶ飲みしている方もいらっしゃいますが、それでは食欲を落としてしまい、食事を十分な量を食べる事が出来なくなり、夏バテになったり筋肉が落ちてしまい兼ねません。
コーヒーは水分補給と考えていいのか?
度々、学生アスリートに『コーヒーは水分補給になりますか?』と質問されます。
私は『コーヒーには利尿作用もあるので、積極的な水分補給ができる物とは言えないかな。だからと言って、飲んではいけない物ではないですよ。あくまでコーヒーは嗜好品と考えてはいかがですか?』とお答えしています。
カフェインの影響は人によって異なりますが、中には“コーヒーを飲むと眠れなくなる!”という方もいらっしゃるでしょう。あるJリーグチームでは試合前日のコーヒーはカフェインレスを提供しています。
昨年のNHKのガッテン!(2015/7/1放送)で、煎茶を氷水で入れたお茶が玉露のように美味しいと放送されていました。さらに、カフェインがほとんど出ないそうです。また、旭化成陸上部の宗猛監督のチームでは、トレーニング中の水分補給にこれを飲んでいるそうですよ。
(http://www9.nhk.or.jp/gatten/articles/20150701/index.html)
作り方
1.煎茶10gを急須に入れ、氷水100mlを加える。
2.約5分待って、茶こしを使って湯飲みに注ぐ。
私も夏には頻繁に登場させる予定です。
◆執筆者:河谷彰子氏
管理栄養士
(公財)日本ラグビーフットボール協会 セブンズ アカデミー栄養アドバイザー
慶応義塾大学非常勤講師
日本女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻、筑波大学大学院で体育研究科コーチ学を専攻後、運動指導及び栄養カウンセリング、食サービスの提案を行う、ジュニアユースからトップチームまでのJリーグ選手やラグビー選手への栄養アドバイスを行う。