アスリート食導入の境界線 ジュニア期編(執筆者:管理栄養士・体育学修士 河谷彰子氏)

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ジュニアアスリートの親御様からジュニアプロテインについての質問が多くあります。1
また、一方でトレーニング後にお菓子を食べさせている親御様もいらっしゃいます。
マラソン編と同様、アスリート食導入の境界線を綺麗に引くのは難しいですが、ジュニアアスリート食導入の境界線について考えてみたいと思います。

 

子供の笑顔見たさに・・・。

運動後は、エネルギー源として使用された分を炭水化物から補給する事が、疲労回復・筋肉づくり等の観点で必要だとされています。そのため、私は“運動教室の後に、おにぎりを食べる!”を推奨しています。
おにぎりを勧める理由は、将来、コンビニを利用する年代になった時、トレーニング後におにぎりをまず選んで食べるアスリートになって欲しいからです。お菓子を食べると、菓子類の刺激的な味が菓子類の食べすぎにつながり、その後の食事が食べられなくなる事にもつながりやすく、必要な栄養素(特にたんぱく質・ビタミン類)が不足しやすいからです。

あるスポーツ教室の保護者向けのセミナーで“運動後に、おにぎりではご褒美にならない…”と言われた事があります。さて、子供達はご褒美のために運動をしているのでしょうか?運動やその教室を楽しんでいるのではないでしょうか?ご褒美が必要でしょうか?

また別のスポーツ教室で、試合と試合のちょっとした時間に、スナック菓子を保護1
者の方が用意していました。後日、私はこうお伝えしました。『子供達は、未来の日本代表や世界を目指す選手かもしれません。皆さんがあこがれている、あの代表選手が、試合の合間にポテトチップスを食べているところを想像できますか?』

子供達が喜ぶ姿を見たいという親心は分からないでもありませんが、ジュニアアスリートの延長線上にはトップアスリート枠があるという事を考えてみるというのはいかがでしょうか。

食べたい物が身体に必要な物だという感覚には、子供の頃からの正しい食習慣が基礎となる。

小学生の年代では身体は大きくない上に筋肉量も多くありません。小学生高学年では、運動の有無による1日のとっておきたいエネルギー量の違いは約200~300kcalです。
高校生では身体も大きくなり、運動の有無により筋肉量にも大きな差が出てきます。さらに運動強度も高くなるため、運動の有無で約300~500kcalほど違いが出てくると考えられます。
運動の有無によって3食の食事量を多少増やす必要はありますが、それ以上に運動後に食べる物が炭水化物+たんぱく質を多く含む食事の一部(補食)であると、必要な栄養素も確保しやすくなります。

持久力アップのキーワードにグリコーゲンローディングがありますが、筋肉中に貯蔵されるグリコーゲン量が多いと持久力に貢献するとされています。つまり筋肉量が多くなる高校生時代から特に意識する必要があります1
筋量アップには炭水化物+たんぱく質の組み合わせが大切であり、筋トレ後なるべく早いタイミングで補給すると良いとされています。高校生の男子では1年生と3年生では親子位の体格差が出てくることもある事から分かるように、筋量アップの食事を意識するのも高校生年代からと言えます。つまり本格的なアスリート食の導入は高校生以上と言えます。

話が脱線しますが、喫煙習慣がある方がなかなか禁煙できない理由に、こんな背景があるとラジオで耳にした事があります。
仕事の合間にリラックスできそうなちょっとした時間にタバコを吸う。すると、いつしかタバコ=リラックスのアイテムになる。リラックスアイテムをタバコから他の物(例:ブラックコーヒーやガム)に変える事が出来ると禁煙はスムーズにできる。
子供達にとって、トレーニング後にお菓子を食べるという習慣は、タバコと同じような理由でやめられづらく、途中でおにぎりにスライドさせるには、なかなかの努力が必要ではないでしょうか。“食べたい物が身体にとって必要な物である”と言いますが、食べた事のない物を食べたいとは思わないのではないでしょうか?そういう意味でも、ジュニアアスリートには、近い将来にも通用する補食を取り入れて欲しいなと感じます。

プロテインを飲んで良い年代は、どこからなのか?

少なくとも小中学生の内には、ジュニアプロテインは不必要だと感じます。1
以前に“小中学生のスポーツキッズにサプリメントの必要性が見当たらない。(https://www.shirokawa.jp/column/kawatani_akiko/2148/)”でもお伝えしていますが、中学生ジュニアスリーとの食事は、十分食材からの料理で補えます。
高校生・大学生、そして社会人・プロアスリートと身体も大きく、トレーニング量が増えていく中で食事量は増える一方です。小中学生の内からサプリメントに頼ってしまうと食事量が増えづらく、食事への意識が間違った方向に行きかねません。

私がプロテインを勧めるタイミングは、これ以上食事量を増やすと食事が苦痛になるという時です。
少食のジュニアアスリートの場合は、食事回数を増やす事で一日の食事量を増やす事も大切ですが、それ以上に大切な事は、食べないと大きくなれない・強くなれないとジュニアアスリート自身が感じ、食べようという気持ちをくすぐる事だと感じています。
そうでないと、サプリメントに過剰な期待をしたり、頼ってしまいます。ケガ等で運動量が減少した時にサプリメントを飲まないと、筋肉が落ちる・コンディショニングを整えられないと不安に感じてしまい兼ねません。食事量を確保し、最終的にサプリメントに頼ってみる。そして運動量が減少し食事量を減らしたい時は、サプリメントから減らす→補食を減らす→3食を減らすという方が健全ではないでしょうか。

 


◆執筆者:河谷彰子氏

管理栄養士
(公財)日本ラグビーフットボール協会 セブンズ  アカデミー栄養アドバイザー
慶応義塾大学非常勤講師

日本女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻、筑波大学大学院で体育研究科コーチ学を専攻後、運動指導及び栄養カウンセリング、食サービスの提案を行う、ジュニアユースからトップチームまでのJリーグ選手やラグビー選手への栄養アドバイスを行う。

URL:http://www.kouenirai.com/profile/2448.htm