ニンジン(執筆者:松山大学薬学部教授 天倉吉章氏)

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ニンジン

    最近は健康志向の高まりで多様化しているとはいえ,知っている薬草は?と聞くと,“ニンジン(人参)”と返ってくることが多い。ニンジンは,チョウセンニンジン(朝鮮人参)やコウライニンジン(高麗人参)と呼ばれ,古くから不老長寿の薬として珍重された。ニンジンはウコギ科オタネニンジンの根で,現在も滋養強壮や健胃整腸等を目的に,漢方薬や栄養ドリンク等に利用される。一方で,ニンジンと聞くと,野菜のニンジンを想像する人も多い。野菜のニンジンも栄養価が高いので,生薬のニンジンと同じものと思っている人もいるかもしれないが,野菜のニンジンはセリ科で全く別物である。日本語ではいずれも“ニンジン”なので混同するかもしれないが,英語では“ginseng”と“carrot”でまったく別の単語となる。ニンジンの名はその姿が人のような形をしていることに由来するとされる。元祖ニンジンは生薬のニンジンの方で,西洋から入ってきた野菜のニンジンの香りや形がニンジンと似ていたので同じ名前で呼んだとされる。

 

オタネニンジン(御種人参)

    ニンジンは,徳川吉宗が種子を全国に配り,諸藩に栽培を奨励した経緯がある。将軍から献上された種子ということで,御種(おたね)人参と命名された。オタネニンジンは直射日光を嫌い,様々な条件が必要とされるが,今でもその条件が要求され,栽培が難しい植物としてあげられる。産地としては,福島県の会津若松,島根県の大根島,長野県の上田,佐久等があげられる。ちなみにオタネニンジンの根を蒸すとコウジン(紅参)になり,生薬ではニンジンとコウジンの原料となる。


図1

    神農本草経という中国の古い書物に人参は,「五臓を補い,精神を安んじ…」と記載されている。ニンジンの成分として知られているのはギンセノシドと呼ばれるサポニン。サポニンは去痰等が主な作用として知られているが,ニンジンのサポニンは抗疲労や精神安定等の中枢抑制と,一方で中枢興奮を示すことが動物実験からわかっており,この多面的な作用を示す化合物群からみても“五臓を補う”ことがわかる。漢方では要薬の一つとしてあげられ,大建中湯や六君子湯等,人参湯類としてまとめられている。大建中湯の他の配合生薬を見ると,乾姜(ショウガを蒸し,乾燥したもの),山椒(サンショウの果皮),膠飴(デンプン由来の飴)で構成されている。このように,食品として使われるものを配合する。薬食同源であることが中味をみるとよく理解できる。

図2


◆執筆者:天倉吉章氏

松山大学薬学部教授