蒲鉾あれこれ(執筆者:管理栄養士・体育学修士 河谷彰子氏)

河谷彰子タイトル67

先日、富山の親戚が105歳になり、そのお祝いに大きな鯛の形をした蒲鉾が送られ1
てきました。左上にあるメガネと比較すると、その大きさがお分かりになるでしょう。
富山では、お祝い事の時には写真のような蒲鉾がよく登場します。
また、日常的には板付きの蒲鉾ではなく、昆布や青・赤が渦巻き状の模様になった巻き蒲鉾を食べます。
店頭で見かける紅白の蒲鉾に慣れ親しんでいる方からすると、巻き蒲鉾は衝撃的でしょう。お弁当に入った巻き蒲鉾を友人が珍しそうに眺めて『それ、蒲鉾?』と質問された事もありました。
という事で、蒲鉾が気になり調べてみました。

蒲鉾の歴史

蒲鉾は平安時代の文献にすでに登場している昔からある加工食品です。魚のす1
り身を細竹にぬりつけて焼いたもので、竹輪の原型です。
見た目が蒲(ガマ)の穂に似ていて、蒲の穂が鉾のような形だった事から“蒲の鉾”⇒“蒲鉾”と呼ばれるようになったそうです。現在のように、板を使用するようになったのは安土・桃山時代だそうです。この板には大切な役割があり、蒲鉾を蒸したり冷やす時に、水分を吸ったり出したりするため腐りにくくなるそうです。
富山の蒲鉾は板を使用しないのですが、その理由は昆布の食文化が根付いていた為だそうです。昆布の味が均等に行き渡るように渦巻き状に巻いた独特な形をしています。1
江戸時代の頃、江戸は蒸し蒲鉾、京阪地域では蒸してから焼いた蒲鉾が主流だったそうです。理由は関東では小田原地域に代表される蒲鉾の生産地が江戸に比較的近いため蒸した物が主流で、京阪神地域では大阪・兵庫・堺等の生産地から少し離れた京都まで運ぶため、腐敗防止に蒸した後に焼いたのだそうです。

練り製品色々

蒲鉾の基本となる材料はタラ・イトヨリ等の白身魚のすり身+卵白+塩です。
白身魚をすり身にした練り製品には蒲鉾の他に、竹輪・伊達巻・魚肉ソーセージ・はんぺん・さつま揚げ・じゃこ天等があります。またお料理には“しんじょう”もありますね。
蒲鉾の材料であるタラと代表的な練り製品の栄養成分を比較してみました。(蒲鉾の1切れ(薄め)は約10gです。)
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タラは炭水化物がゼロであるのに対して、多少の炭水化物が含まれている為、材料にでんぷんや砂糖・みりん等が加えられていると想像できます。また塩分も加えられています。
ひき肉をつみれやハンバーグを作る際に粘りを出すために塩を使用するように、練り製品には塩を使用します。この粘りは加熱によって弾力に変化します。塩分を控えたい方は練り製品を食べる頻度や量に注意が必要と言えます。

静岡県の郷土食である“黒はんぺん”はサバ・イワシ・アジ等の青魚を主原料に1
しているため、色が灰色になります。含まれている栄養素は不明ですが、想像するに通常の白いはんぺんより鉄分が含まれている事と、骨が少し含まれている為、カルシウムが多いと想像できます。

大分におでんに”なると”が!

地方に出掛ける時は、地元のスーパーの食材や惣菜売り場に行って、その地域1
の食文化を感じるのが楽しみです。お仕事で大分に伺った際、衝撃的な惣菜を目にしました。
おでんの中にぶつ切りの“なると”が入っていたのです。このスーパーオリジナルかな?“なると”は薄~く切って大切に頂く物ではないの?と感じていました。
大分の方々に『おでんに“なると”が入っているのは普通の事ですか?』と質問をしてみると『え!おでんに“なると”を入れないの?』と質問を返されてしまいました。
どのような歴史でおでんに“なると”を入れるようになったのか定かでないのですが、これが食文化・食習慣の伝承なのかな?と不思議に感じる出来事でした。

神奈川県の小田原にある鈴廣さんで、竹輪・蒲鉾作りを体験してきました!

1蒲鉾について調べていたら実際に作ってみたくなり、1
母と体験してきました。
原材料の白身魚はイシモチでした。蒲鉾1本(250~260g)には、5~6尾を使用するそうです。左の写真は、竹輪1本分のすり身で、量は蒲鉾の半分でした。かなりの量のイシモチを使用している事に驚きです。
すり身はかなり粘りがあるため、専用の包丁を使用して竹の棒に巻きつけたり蒲鉾の板に乗せるのは、不器用な私にとってなかなか難しかったです。
蒲鉾に包丁の先で“AKI”の文字を書いてみたのですが、なかなか売り物のように綺麗にいきませんでした。綺麗にデコレーションされた蒲鉾を作っている職人さんはすごい!と再認識しました。
竹輪はそのまま焼いて、蒲鉾は蒸して出来上がり!出来立てアツアツの竹輪を頂いたのですが、自分で作ったという事もあり、本当に美味しかったです。

大きな鯛の蒲鉾に始まり、食材の歴史・食文化・作り方を感じる事が出来た私です。何だか練り製品の見方が変わったような気がします。

 


◆執筆者:河谷彰子氏

管理栄養士
(公財)日本ラグビーフットボール協会 セブンズ  アカデミー栄養アドバイザー
慶応義塾大学非常勤講師

日本女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻、筑波大学大学院で体育研究科コーチ学を専攻後、運動指導及び栄養カウンセリング、食サービスの提案を行う、ジュニアユースからトップチームまでのJリーグ選手やラグビー選手への栄養アドバイスを行う。

URL:http://www.kouenirai.com/profile/2448.htm