こどもの日と端午の節句(執筆者:管理栄養士・体育学修士 河谷彰子氏)
カレンダーの5月5日には“こどもの日”と書かれています。
端午の節句といういい方もありますが、違いは何だろう?と、ふと疑問に思いました。
そして、行事食の代表として柏餅がありますが、どのような願いが込められているのでしょう。
色々気になったため、調べてみました。
奈良時代に中国から伝来
楚(中国)の側近に屈原(紀元前340~278年)という人がいました。人々から愛さ
れていた屈原ですが、陰謀によって失脚し、国を追われ川に身投げしました。悲しんだ人々は、屈原の遺体が魚に食べられないように川に“ちまき”を投げたり、小舟で川へ行き太鼓を打ち、魚を脅したそうです。これが後に健康祈願や厄除けを願う宮中行事となり、ちまきを食べたり、ドラゴンボートレース(龍の頭と尾で装飾した船でレースをする)になったそうです。
端午の節句と言いますが、端午とは、月のはじめ(端)の午(うま)の日という意味で、元々は5月に限ったものではありませんでしたが、午(ご)と五(ご)の音が同じ為、毎月5日を指すようになったようです。
端午の節句が5/5に実施されるようになったのは、魏の国(220~265年 三国志の時代)の頃です。5月は急に暑くなり、病気になったり亡くなる方が多く、5月を“毒月”と呼び、厄除け・毒除けを願って、菖蒲・ヨモギ・ガジュマロの葉を門に刺したり、薬用酒やちまきを飲食して健康増進を祈願したそうです。
日本へは奈良時代(710~794年)に伝承されました。
元々は季節の変わり目である端午の日に、病気や災厄を避けるために行なわれた行事で、薬草積みや蘭を入れた湯を浴びたり、菖蒲を浸した酒を飲んだそうです。
元々宮中行事であった端午の行事は時代と共に廃れていきましたが、端午の節句を尚武の節日として盛んにお祝いするようになったようです。また、男子誕生のお祝いへとも変化し、武士のみならず町民にも広がっていったのです。
ちなみに“子どもの日”と決まったのは、1948年(昭和23年)です。『こどもの人格を重んじ、こどもの幸福をはかるとともに、母に感謝する』事が趣旨です。
大正11年~昭和23年の5/5は“児童愛護デー”とされ、昔から5/5は子どものための日という認識が強かったようです。
ちなみに“子どもの日”の記載は“子供”ではなく“子ども”です。
昔、子供は7歳まで神様の預かりものとされていたので、神仏へのお供え物という意味の“供”を使用して“子供”と表記されるという説があります。しかし、大人の手下のような印象を受けるという理由から“供”という漢字を避けた方が良いという意見があり、“子ども”と記載する事になったそうです。
五月人形への思い
平安時代(794~1185年)の頃から、子供が菖蒲で飾った紙の兜を付けて遊ん
だそうです。
特に武家時代(鎌倉時代~江戸時代)には“菖蒲”と“尚武(しょうぶ:武道・武勇を重んじる事)”の音が共通するため、盛んになったようです。
元禄時代(1688~1704年江戸幕府5代将軍・徳永綱吉の治世)には、紙や木で作った菖蒲人形を庭先に立てられるようになり、それがいつしか室内に飾られるようになったようです。
鯉のぼりへの思い
室町時代(1336~1573年)、5/5の端午の節句に竹竿に布を張り“吹き流し”を
立てていましたが、江戸時代には町人階級も紙で作った“鯉のぼり”を竿につけていたそうです。
鯉は威勢のよい魚であり “鯉の滝登り(目覚ましく立身出世する事)”と称される通り、子供が元気に育つようにという願いが込められています。
鯉のぼりの一番上には、5色の吹き流しがついていますが、これは古代中国の“五行説”に由来しているそうです。万物は“木・火・土・金・水”の5つの要素で形成されている。5つの要素が循環することによって、万物が形成され自然界が構成されているという考えです。
五色の吹き流しは、子供の無事な成長を願って“魔除け”の意味で飾られました。また、竿の先端にはカラカラと回る矢車もついていますが、同様の意味を持っています。
行事食 ちまき・柏餅
ちまきを食べる習慣は、上記の通り中国から伝来した習慣です。
形が毒蛇に似ているため、邪気を払うとされています。
柏の葉に、上新粉+くず粉(又は片栗粉)を混ぜて作った“しんこ餅”にあんこを挟んだ物を置き、2つ折りにしたお菓子が柏餅です。
端午の節句に柏餅を食べる習慣は日本独自のものです。
柏の葉は、新しい芽が出るまで、古い葉は落ちずにいます。その事から柏餅には“家の跡継ぎが生まれるまで、親は元気でいる。子孫繁栄”という願いが込められています。
関東では柏餅を食べる習慣が根付き、関西ではちまきを食べる習慣が根付きました。
それ以外にも、ぶりの照り焼き・カツオのたたき・筍の煮物や筍ご飯を食べる所もあるようです。
ブリ:出世魚のため、子供の出世を願う。
カツオ:勝男と読み、“勝つ”にあやかっている。
筍:すくすくとまっすぐ伸びて大きく育つよう願って。
行事には健康祈願・厄除けを願っている物が多いように感じますが、端午の節句のルーツが、皆に愛された一人の人物がきっかけという事に驚きました。そして、男子のみの行事ではなかったのが、男子の誕生のお祝いへと変化し、再び昭和になって男女関係なくなったんだという事も興味深いなと感じます。
また行事食については、食材それぞれの思いが詰まっていて、大事に受け継ぎたい考え方だなと感じますが、皆さんはどのように感じますか?
◆執筆者:河谷彰子氏
管理栄養士
(公財)日本ラグビーフットボール協会 セブンズ アカデミー栄養アドバイザー
慶応義塾大学非常勤講師
日本女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻、筑波大学大学院で体育研究科コーチ学を専攻後、運動指導及び栄養カウンセリング、食サービスの提案を行う、ジュニアユースからトップチームまでのJリーグ選手やラグビー選手への栄養アドバイスを行う。