女性は男性に比べてダイエットが順調に進まない。(執筆者:管理栄養士・体育学修士 河谷彰子氏)
ホルモンの影響により、女性は男性に比べて体重コントロールが難しいです。
この認識がまだまだ低いため、体重コントロールを求められた女性アスリートがコーチに『なぜ、体重が増えているんだ!!』と怒鳴られ、号泣した事がある・どうして良いか分からず絶食して倒れた・拒食症になってしまった…等のエピソードを耳にした事があります。
女性と男性のホルモンの影響による違いについて、考えてみたいと思います。
脂肪のつきやすい場所が違う。
男性はズボンのベルト部分が最も太くなりやすいように内臓脂肪が付きやすく、リンゴ型肥満とも表現される太り方の方が多いです。一方、女性は太ももからみぞおちにかけて皮下脂肪が付きやすく、洋ナシ形肥満とも表現される太り方の方が多いです。
リンゴ型肥満(内臓脂肪型肥満)は、生活習慣病になりやすいため、動脈硬化の
リスクを減らすためにも、予防しておきたいところです。
メタボリックシンドロームの判定基準の1つである腹囲は、成人男性85cm以上・成人女性90cm以上です。男性の方が女性比べて体脂肪が増えると、動脈硬化のリスクが高まりやすいため、これを回避するためにも基準が厳しいのです。
内臓脂肪は外界からの物理的な衝撃を吸収する事で、器官を保護する役割があり、一説には、大昔男性が狩りをしていた頃、獣にガブッとされても内臓脂肪が保護していた人が生き残ったから男性はリンゴ型肥満の人が多いという説も…
内臓脂肪は、ウォーキング等の運動で落ちやすく、食事では炭水化物を抑えると落ちやすいです。(炭水化物を減らすとどうなるのか?
https://www.shirokawa.jp/column/kawatani_akiko/3221/参照)
洋ナシ形肥満(皮下脂肪型肥満)は、生活習慣病に代表される健康被害に直結
する可能性は低いとされています。ただし、整形外科的に関節等に負担をかけるため、内臓脂肪でも皮下脂肪でも体脂肪が多いと痛みが出やすくなります。
皮下脂肪と女性ホルモンは密接な関係があり、体脂肪が少なすぎると生理が止まってしまう事もあります。そうすると骨密度も下がりやすいため、生理不順や無月経は放っておいてはいけません。ある調査結果では、体脂肪率が10%以下だと全員に月経異常があり、12.5%で半数、15%を超えると3割ほどが生理不順等の異常が見られたとしています。
ちなみに食事面では、総エネルギー量が徐脂肪体重×30kcalを下回ると月経異常が起こりやすくなるとされています。むやみやたらに食事量を減らしていると生理異常が起こってしまいますので要注意です。
例:体重70kg 体脂肪率35%の場合、1,365kcal/日を下回ると月経異常が起こりやすいという計算になります。
70(kg)×(1-0.35)=45.5(徐脂肪体重 kg) 45.5(kg)×30(kcal)=1,365(kg)
(若い時から気にしたい骨の事
https://www.shirokawa.jp/column/kawatani_akiko/932/参照)
皮下脂肪は外界の温度変化から断熱して体温を保つ役割があり、一説には、男性が狩りをしている間、集落で家族子供を守り、保温に長けた体質の人が多く生き残ったから女性は洋ナシ形肥満の人が多いという説も…。
月経周期と体重
女性は女性ホルモンの影響でリズムがあります。
正常な月経周期(月経開始日~次の月経がはじまる前日までの日数)は25~38日です。
卵巣から分泌される女性ホルモンは、卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲストロン)の2種類です。
卵胞ホルモンは排卵の前にピークに達し、排卵後は黄体ホルモンの分泌量が増加します。(基礎体温にも変動あり。)
排卵に関わる卵胞ホルモンの分泌が多い排卵前は体調が良い事が多く、運動の効果や体重が減少しやすい、ダイエット効果が出やすい時期です。一方、黄体ホルモンの分泌が多い排卵後は体調不良を訴える方や、ダイエット効果が得にくい時期とも言えます。
月経が始まる3~10日前から起こる精
神的・身体的症状で月経開始と共に減退ないし消失するものをPMS(月経前症候群)と言います。これらは、エストロゲン(卵胞ホルモン)の受容体が身体の様々な所(大腸・神経・筋肉等)にあり、このような症状が出るのだそうです。
月経前に体重が増える方も多いですが、この時期はホルモンの影響により、水分をため込みやすく(浮腫みやすく)、大腸の働きが低下し便秘しやすいからです。そのため、排卵後から生理前の時期はダイエット効果が出にくい時期と言えます。
さらに、PMSの症状がある方はない方に比べて、月経前に食欲が増すため、体重増加しやすい傾向にあります。
ある調査結果では一か月の体重変動が男性は0.95~1.65kgだったのに対し、女性は1.6~4.25kgの変動があったそうです。
女性の場合は、生理周期に合わせて体重をコントロールする。
男性は前項のようなホルモンの影響を受けづらいため、ダイエットを開始すると比較的順調に体脂肪が落ちてきます。しかし女性の場合は、そうはいきません。そのため、月経後から排卵までの時期に体重を減少させ、排卵後から月経前の時期は排卵前に減少した体重をキープできれば大成功と思っていれば良いでしょう。
つまり、生理周期に合わせて体重変動をチェックし、前回の同じ時期と比較して
増えていない事を確認する事が大切です。
また、月経前の食欲増進は、絶対食べちゃダメ!と苦しすぎる決め事を作るより “〇時まではOK”“これはPMSの症状だから、やり過ごそう”と捉え、気分転換に運動を実施したり、アロマやストレッチでリラックスするのも一つの方法です。
女性をサポートしている方は、数日の体重変動が何によるものなのかを見極め、アドバイスする必要があると考えます。
女性・男性アスリートをサポートして感じる事は、アプローチ方法を違えた方が良いという事です。
このお話しは、別の機会に。
◆執筆者:河谷彰子氏
管理栄養士
(公財)日本ラグビーフットボール協会 セブンズ アカデミー栄養アドバイザー
慶応義塾大学非常勤講師
日本女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻、筑波大学大学院で体育研究科コーチ学を専攻後、運動指導及び栄養カウンセリング、食サービスの提案を行う、ジュニアユースからトップチームまでのJリーグ選手やラグビー選手への栄養アドバイスを行う。