皆大好き、カレーについて(執筆者:管理栄養士・体育学修士 河谷彰子氏)

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カレーライスはご飯が進むし、ご飯+おかず+野菜がそろっていて、一皿で色々1
な栄養素をとる事ができ、献立を考える側には嬉しい料理です。
ご家庭によって、カレーに入れる具材が異なったり、隠し味に入れる調味料や香辛料を工夫したりと、こだわりがあるという方もいらっしゃるでしょう。
そこで今回は、年代を問わず人気の “カレー”について調べてみました。

インドからイギリスへカレーは伝わるが、仕上がった料理は別物。

インドには“カレー”という料理は厳密にはなく、様々な香辛料を組み合わせた1
煮込み料理
を外国人はカレーと呼んでいます。食材によって、異なる香辛料を組み合わせている為、カレー粉という食材はありません。
宗教上、牛・豚・魚介・卵・ニンニク・ニラ・ラッキョウ・玉葱を食べないため、これらが料理に入る事はありません。日本のカレーライスによく入れる食材が、ルーツであるインドカレーには入らない事に驚きます。

1772年頃(インドを植民地としてイギリスが支配し始めていた)、カレーに使用される香辛料と米がインドからイギリスに持ち込まれ、カレーライスがビクトリア女王にも献上されたそうです。
ソースを大切にするフランス料理の影響で、イギリスでは小麦粉をバターで炒めた“ルウ”にカレー粉を加え、トロミをつけるようになり、インドのカレーとは異なる料理に変化しました。
19世紀、スパイスを既に調合してある“カレー粉”がイギリスで販売され、より手軽にカレーが作られるようになりました。当初、具は牛肉のみで野菜はほとんど入っていなかったようです。

その後、何故かイギリスでのイギリス式カレー人気は低迷してしまいます。

“海上自衛隊では金曜日の昼食にカレーライス”は、イギリスから。

1870年頃(明治3年)、カレー粉がイギリスから日本に持ち込まれ、1
1876年(明治9年)、クラーク博士が開校した札幌農学校の食事で“ライスカレー”が提供されていたそうです。
1900年頃(明治33年)には、洋食屋の定番メニューになるほど普及していたそうです。

“横須賀海軍カレー”というカレーがありますが、なぜ海軍がカレーなのか?と不思議に感じていたのですが、先日テレビで興味深い事を放送していました。
現在、海上自衛隊では毎週金曜日の昼食にカレーが提供されているそうです。船上に長い事いると曜日の感覚が無くなるため、金曜日はカレーの日と決めているそうです。
元々は、半日勤務である土曜日の昼食がカレーの日だったのですが、週休2日制を導入後、現在では金曜日がカレーの日だそうです。
休日に入る前にカレーライスだと、通常の食事に比べて料理の手間や後片付けが楽なため、厨房スタッフの負担も軽くなるというメリットもあるようです。

ルーツは、旧海軍(大日本帝國海軍 1872~1945年・明治5年~昭和20年)にあります。
明治時代はじめ、ビタミンB1の欠乏が原因である脚気で亡くなる軍人が多く、海軍の軍医がイギリス海軍の食事にカレーシチューがメニューの中心にあるのを参考に日本の海軍・陸軍でも取り入れたところ、脚気で亡くなる軍人が減少したそうです。つまり、海軍カレーはルウタイプのカレーという事です。さらに、帰還した兵士を通じてカレーライスは家庭に浸透していったという事です。
ちなみに、ビタミンB1を多く含む食品でカレーライスに含まれやすい食材には、豚肉・玄米・カレー粉等があります。

海上自衛隊ファミリーページでは、海上自衛隊が作るオリジナルレシピを紹介していました。
(http://www.mod.go.jp/msdf/formal/family/recipe/archive/currey.html)

日本流のアレンジが加わったカレー料理

明治終わり頃、カレーライスの具として“ジャガイモ・玉葱・人参” が定番になったそうです。それまではイギリス式カレーのようにあまり野菜は入らず、入っても長ネギ程度のようです。(明治の中頃まで、玉葱は一般的でなかった。)
1872年(明治5年)に発行された料理本“西洋料理指南”には、赤カエル・エビ・鶏肉・長ネギ・生姜がカレーの材料として記載してあるそうです。さらにトロミは水溶き小麦粉を最後に入れるとあります。
1920~1930年(大正9年~昭和5年)頃、国産のカレー粉が広まった事や、北海道を中心に“ジャガイモ・玉葱・人参”が量産されるようになった事により、現在のような日本のカレーライスの原型が出来たようです。

日本で、このように広まったカレーライスを嘆いていたインド人が日本にいたそうです。
1927年(昭和2年)、新宿中村屋の創業者の長女と結婚していたインド人 ラス・ビハリ・ボース氏が『インドのカレーとは違う…』と嘆き、本格的なインドカレーを、日本人の口にあうようにアレンジした“純印度式カリー”を新宿中村屋で販売するようになったそうです。

日本人が得意とするアレンジはカレーでも健在です。1
・カレーうどん
(1904年・明治37年 東京・早稲田の三朝庵で誕生)
・カレー南蛮
(1908年・明治41年頃 東京・麻布の朝松庵・朝松庵の大阪支店で誕生)
・カレーパン
(1927年・昭和2年 東京・江東区の名花堂(現在のカトレア洋菓子店)で誕生)
日本人のカレー好きが感じられますね。

1992年(平成4年)には、宇宙飛行士の毛利さんが宇宙でレトルトカレーを食べ、他のクルーにも好評で宇宙食の定番メニューになっているそうですよ。

トップアスリートも大好き

私がサポートしている某プロアスリートチームでは、ナイター後の夕食にカレーを出すようにしています。理由は香辛料の効果で、ナイターで疲れ切っている時でも食欲が湧きやすいから・カレー好きな選手が多いからです。
夏はナイターの試合が多いため、ほぼ毎週末カレーライスが提供されているのですが、ある選手から“カレーライスは試合後だけじゃなくて良いよ。カレーが大好きだから、もっと頻度を高く食べたいんだよ~。”と言われた事があります。
食堂の香りが届く距離に選手のロッカールームがあるチームでは、着替えながら今日の食事は何かを想像しているようで、カレーの日は食堂の扉を勢いよく開けるなり“やっぱりカレーだ♪”“やった~!カレーだ~♪”と子供のように喜ぶ姿を目にします。

カレーの作り方にこだわりがあるという方が私の周りには多く、
『野菜は切って半日干しておくと味が凝縮して美味しいんだ!』
『市販のカレーのルーは2種類以上をミックスして使うと美味しい!』

本格的に、香辛料の調合から始める!
隠し味に、インスタントコーヒー・ソース・醤油…
等色々です。
難しく考えず、定番の食材を使うも良し、旬の野菜を入れても良し、カレーうどんにアレンジしても良し、焼き野菜のソースとしてカレーをかけるというのも美味しいですよ。

今年の夏は、寒暖の差が大きいですが、疲労回復のためにも、食欲が落ち気味という方にも、今晩のメニューはカレーライス!というのはいかがでしょう?

呉市の中学生が“Calbeeかっぱえびせん 海軍カレー味”を提案

以前、広島県呉市でお仕事をした際に、興味深いお話を伺いました。1
呉市立両城中学校では、“総合的な学習”という授業で、各学年がテーマを決めて勉強をしているそうです。
“地域に貢献する街づくり”をテーマにした3年生は、“自分たちが住んでいる呉市を全国にアピールしたい!”という思いで、呉を代表する食材や料理をテーマに数社の企業に提案をし、商品化させた事があるとの事でした。

呉といえば、旧海軍の拠点になっていたため、海軍カレーがやはり有名です。
また諸説ありますが、カレーと似た食材を使用する“肉じゃが”の発祥の地とも言われています。
そこで学生達は “海軍カレー”“肉じゃが”をテーマにしたスナック菓子を大手企業に提案したそうです。

実際に、以下の商品が発売されたそうです。
・広島限定 “海軍カレーチップス”“肉じゃがチップス”(平成21年3月・平成22年4月)
・中国・四国地区限定 “かっぱえびせん海軍カレー味”(平成23年3~5月)
袋の後ろに記載されている情報も学生たちが提案し、採用されたそうです。
教えてくださった呉市の方が、この“かっぱえびせん”を私の自宅に送ってくださったのですが、なんだか中学生の思いが詰まったかっぱえびせんに感動したのを今でも覚えています。(感動のあまり、袋を今でも取っといてある位です。右上の写真は、頂いたえびせんの空き袋です。)

こう言った子供たちの取り組みは、食育の観点から非常に素敵だなと感じるお話しでした。

 


◆執筆者:河谷彰子氏

管理栄養士
(公財)日本ラグビーフットボール協会 セブンズ  アカデミー栄養アドバイザー
慶応義塾大学非常勤講師

日本女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻、筑波大学大学院で体育研究科コーチ学を専攻後、運動指導及び栄養カウンセリング、食サービスの提案を行う、ジュニアユースからトップチームまでのJリーグ選手やラグビー選手への栄養アドバイスを行う。

URL:http://www.kouenirai.com/profile/2448.htm