鰹 カツオ(執筆者:管理栄養士・体育学修士 河谷彰子氏)

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今年の4/21の朝日新聞デジタルに“カツオ、気仙沼に今季初水揚げ「記憶に1
ない早さ」”という記事がありました。
初夏(5月)をイメージする俳句として“目には青葉、山ほととぎす初鰹”がありますね。今年は雪解けも早かったし、梅雨明けも早いですが何か関連しているのでしょうか…。

鰹は貧血対策・疲労回復対策に良い食材と言えそう。

代表的な赤身魚と白身魚を比べてみました。(下表)
赤身魚の赤は血液の色のため、鉄分が多く、貧血予防・改善に適した魚と言えます。
人間の筋肉には、有酸素運動時に積極的に使われる遅筋と、無酸素運動時に積極的に使われる速筋があり、遅筋の色は動くために血液が酸素を運ぶため赤で、速筋の色は白です。
魚も同様で、常に動いている魚は赤身で、じっとしている事が多く瞬発的に動く事が多い魚は白身です。表を見ると、鉄分に大きな違いがありますよね。
赤身の魚というと“マグロ!”と思い浮かべる方もいらっしゃると思いますが、キハダマグロを除いて鰹が鉄分で勝っていますね。赤血球の合成をサポートするビタミンB12も多く含まれている為、さらに貧血で困っている方には嬉しい食材です。
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一般的に回遊魚の尾の部分や鶏の胸肉やささ身等、動き続ける部分には疲労の予防・改善に貢献するとされる栄養素である“イミダペプチド”が多く含まれています。
回遊魚である鰹にも“イミダペプチド”が含まれているため、慢性的な疲労感を感じている方にお勧めの食材と言えます。

戻り鰹は“トロ鰹”と言われるだけあって、脂質が多い。

カツオは大西洋・太平洋・インド洋に生育しています。1
“カツオは黒潮に乗ってくる。”と言われますが、春から夏にかけて亜熱帯海域から日本近海に北上し夏に東北沖へ、その後水温が下がり始める9月頃に産卵のため南下して熱帯海域へ戻ります。しかし、回遊時期や経路等の詳細は分かっていないようです。
(右図:独立行政法人 水産総合研究センター FRANEWS 2013.3 vol.34 P.16よりhttps://www.fra.affrc.go.jp/bulletin/news/fnews34.pdf

北上し南下するため、地域により初鰹(もしくは上り鰹)の時期は異なり、九州付近では2~4月、本州付近で4~6月、三陸海岸の沖に到達するのが7~9月です。(一般的に初鰹の旬は4~6月)
初鰹は身が引き締まっていて、あっさりとした味です。
戻り鰹の時期は、三陸付近で9月頃、関東地方を通過して四国や九州に到達するのが10~11月頃です。(戻り鰹の旬は10~11月)丸々と大きく、脂がのっている為、濃厚な味わいで“トロ鰹”と呼ばれる位です。背中側よりお腹側に脂肪分が多く、鰹では“はらも”とか“はらんぼ”と呼ばれ、塩焼きにすると絶品です。
栄養成分表を見ても、随分と脂質量に違いがあります。白身魚で言うと、春獲りと秋獲りの脂質量の違いはタラとタイですね。分かるような、分からないような…ですか?
鰹の脂肪には、DHA(ドコサヘキサエン酸)・EPA(イコサペンタエン酸)が多く含まれています。DHA・EPAについては、“サンマの脂肪分は肉より多いが…(https://www.shirokawa.jp/column/kawatani_akiko/3006/)をご覧ください。

ちなみに、鰹節には脂肪分が少ない方が適していてるため、初鰹が鰹節の材料として向いていると言えます。

初カツオを食べる事は粋である!

“初物を食べると寿命が75日延びる”という言い伝えがあるのですが、初鰹は別格だったようです。江戸時代では“初鰹を食べると、750日寿命が延びる!”とされ、かなりの注目食材だったようです。そして、江戸っ子は“初物を食べる事が粋である!”と考えていたため、初鰹を食べる事は“粋”の一つだったようです。
江戸前寿司には鰹がネタに入らないのですが、鰹は足が早い魚のため、当時の輸送方法では限界があり、当時の江戸では鎌倉の沖で獲れたものが食されていたそうです。そのため、初鰹は特に“まな板に、小判一枚 初鰹”詠まれるほど、非常に高価な食材でした。(1本40万円で取引されたという記録も!)

土佐の郷土料理である“鰹のたたき”は焼き魚に見せかけたのが始まり!?

私の第2の故郷、千葉県の勝浦では、鰹をたたきで食べるより、すりおろ1
し生姜やおろしニンニクを薬味に、刺身で頂く事が多いような気がします。
一方、高知県では郷土料理の1つとして鰹のたたきがあります。
以前、愛媛県の方を勝浦に招いて、鰹の刺身を食べて頂いた事があるのですが、食べる前は“たたきじゃないの?”と食べなれない刺身に抵抗があるようでしたが、食べてみるとその美味しさに驚愕していました。
調べてみると、土佐で鰹を生食して中毒を起こす人が増えたことから生食禁止令を出された事があったようで、庶民が表面を炙って焼き魚に見せかけたのが始まりだという説があるようです。

勝浦では、大体の人が鰹をさばく事が出来るように感じますが、皆さんはさばいたことがありますか?海の近くであれば、鰹を1本手に入れる事は容易ですが、そうでなければ、既にさばいた物が売られていますよね。
千葉県勝浦市のホームページには鰹のさばき方が掲載されています。(http://www.city.katsuura.lg.jp/forms/info/info.aspx?info_id=29176
魚をさばくのが苦手・さばいた事が無いという方は、是非ご覧ください。
1本丸ごと購入する場合は、目が充血していない・背びれがしっかりしている・艶がある物が良いですよ。1
冊(さく)で購入する場合は、鮮度が落ちると、鉄が酸化して茶色っぽくなるため、血合い部分がはっきりしていて、身がしまっている物を選びましょう。
鰹は足が早いため、刺身やたたきで余った物を次の日に頂く場合は、照り焼き・揚げ物・角煮にして火を通していただきましょう。

時期によって味が異なる鰹を味わいたくなりました!

 


◆執筆者:河谷彰子氏

管理栄養士
(公財)日本ラグビーフットボール協会 セブンズ  アカデミー栄養アドバイザー
慶応義塾大学非常勤講師

日本女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻、筑波大学大学院で体育研究科コーチ学を専攻後、運動指導及び栄養カウンセリング、食サービスの提案を行う、ジュニアユースからトップチームまでのJリーグ選手やラグビー選手への栄養アドバイスを行う。

URL:http://www.kouenirai.com/profile/2448.htm