トップアスリートに学ぶ、熱中症対策(執筆者:管理栄養士・体育学修士 河谷彰子氏)
今年は梅雨明けも早かったですし、気温が高くなるのも早いですね…そして何より気温が高い日が多いですね。私がサポートしているアスリートのチームでも、これまでやってきたから大丈夫!ではない!!と再度、熱中症対策について見直しているチームが多いです。
熱中症対策に、プロもジュニアも関係ない!という事で、今回は熱中症対策をテーマに致します。
“ご飯+おかず+野菜”のそろった3食を食べる!朝食を食べる!!
私が知る限り、日本代表を経験している選手は皆、朝食を食べています。
食事は栄養補給になりますが、ご飯の半分が水分、野菜の約8割が水分です。
つまり食事は水分補給にもなっています。
熱中症予防には水分補給が大切と言われますが、十分な食事量をとれていない方の場合は、まず食事量の確保です。いわゆるバランスの良い食事からとれる水分量は1日に2ℓ近くになるとも言われています。朝食を食べない・サプリメントしかとらない・ゼリー飲料で終わらせている・食事量が不十分…このどれもが水分補給量不足と言えます。
いわゆるバランスの良い食事とは、運動をしていない方であれば“毎食に、ご飯+おかず+野菜をそろえる。”、スポーツをしている中学生以上であれば“毎食に、ご飯+おかず+野菜+乳製品をそろえる。”というのがスタートラインとして抑えておきたいポイントです。
食事量や水分補給量が十分であるかを知る簡単な方法が体重チェックです。
毎朝の体重をチェックし、前日との差が1kg未満であることがポイントです。睡眠中にも発汗していますので、代謝が高い方は睡眠前と起床時・排尿後の体重に1kg以上の差があります。食事をちゃんととり、水分補給も行なう事で、体調管理につながりますよ。
尿の色で適正な水分補給が出来ているかを判断する。
トップアスリートが使用する施設のトイレには、右のような
チャートが貼ってあります。(https://dailynewsagency.com/2014/04/26/dehydration-chart-mkg/)
1番目:いい感じです。普段通りに水分をとりましょう。
2番目:問題はありませんが少し給水してもいいかもしれませ
ん。コップ1杯分でいいので水分を取りましょう。
3番目:1時間以内に約250mlの水分を取りましょう。
屋外、あるいは発汗していれば500mlの水分を取りま
しょう。
4番目:今すぐ250mlの水分を取りましょう。
屋外、あるいは発汗していれば500mlの水分を取りま
しょう。
5番目:今すぐ1000mlの水分を取りましょう。
この色より濃い、あるいは赤/茶色が混ざっている時は
脱水症状以外の問題が考えられます。すぐに病院に行き
ましょう。
水分の補給量が多くても、発汗量が多い時は、尿の色が濃くなる事ってありますよね。
チャートを目安に、水分補給量を十分であるか確認するのも1つです。
ちなみに、ビタミンB2が入った飲みものやサプリメントを飲んでいる場合、尿の色が濃くなるため、参考になりづらいです。
トレーニング開始時間やトレーニング時間を状況に合わせてコントロールする。
暑い時期であれば、普段のトレーニング時間より午前中の早い時間帯や夕
方の時間帯に変更しています。また、次の試合に向けてトレーニング時間を変更する場合もあります。
合宿中なら、早朝・午前中・午後・夜とトレーニング時間を細かく分け、さらに気温に合わせて室内・屋外とトレーニング内容を変えているチームもあります。
暑い環境下では集中力を保つのが大変です。悪環境で、長い時間トレーニングする事は、熱中症は勿論ですが、怪我の原因にもなりかねません。
そもそも、サッカーやラグビーの試合開始時間は、時期によってデーゲームだったりナイトゲームだったりと変わりますよね。
一方で代表的な夏の試合である夏の甲子園(野球)は、限られた期間で決められたゲーム数をこなさないといけないという状況があるせいか、試合が日中になっているのが現状です。またそれに伴って練習時間も日中になってしまいます。この暑さで、何か重大な問題が起こらないかと私はハラハラしています。今年はアスリートが熱中症になってしまったというニュースも多いですが、試合を観戦している方達の熱中症が多いというニュースも多いですよね。
今年は “例年と同じ”ではいけない暑さのように感じます。
トレーニング後にアイスバスに入る。
ラグビーやサッカーでよく目にするトレーニング後のアイスバスは、熱中
症予防のためではなく筋肉の疲労回復や痛みが出やすい部分のケアとして、夏に関わらず通年を通して実施しています。
ラグビーでよく目にする光景では、大きなポリバケツ(業務用のごみ箱)に水や氷を入れて、トレーニング後に太ももまで入っています。また、アイスバスのような部分的な方法でなく、クーリングダウンとしてプールをゆっくり歩くというケースもあります。
オリンピックでも選手村には、選手の身体のケアとして、交代浴・炭酸浴ができるように浴槽を設置しています。
一方で、ジュニア期のチームでアイスバスをトレーニング後に使用するという状況をあまり目にしません。
時間がない・設備がない等、様々な理由があるとは思いますが、身体のケアについて十分な説明をコーチから選手にされていなければ、家に帰ってバタンキューで寝てしまい、食事もしっかり食べない+入浴はシャワーで終わらせてしまう+ストレッチもマッサージもしていない…という状況になってしまいます。ここが変われば、怪我も減るのではないか?と感じる事が多いです。
トレーニングで高まった体温を下げる事は、余分なエネルギー消費を抑える事が出来るほか、筋肉の疲労回復にも役立ちます。熱中症っぽいと思った時は、水分補給も大切ですが、体温を下げるために水風呂(熱中症になった時は2℃の氷入りの水風呂)も良いでしょう。
色々な事を考慮に入れると、緊急事態の備品としてのみならず、日常使いとして・選手への身体のケアの一環として、特に夏は“運動後に水に入る”という習慣は、良い刷り込みになると考えます。
プールがある学校であれば、トレーニング後はプールでクーリングダウンというのも良いのではないでしょうか?
経口補水液は熱中症予防の飲み物ではない。
暑い時期の食事に関するセミナーの内容には、欠かさず熱中症対策の食事の話をアスリートにお伝えするのですが、ジュニア世代のアスリートがこっそりこんな事を教えてくれる事がよくあります。
“試合前日に、経口補水液を飲むよう指示される…しょっぱくて美味しくないけれど、飲まないといけないの?”
経口補水液は、熱中症予防のための飲み物ではないですし、ウォーターローディングのための飲み物でもありません。熱中症になってしまった時に飲む物です。
“これまでやってきたから大丈夫だろう…”が通じない今年の暑さ…これまでの経験値だけで判断してはいけないのでは?と感じている今日このごろです。
熱中症に関する、様々な情報が載っているホームページです。是非、参考にしていただければと思います。
熱中症.com (https://nettyuusyo.com/)
また、これまでに熱中症対策として、ご紹介したコラムは以下の通りです。
夏は汗をかくから塩分をとった方が良い? https://www.shirokawa.jp/column/kawatani_akiko/1438/
夏バテを吹っ飛ばせ! https://www.shirokawa.jp/column/kawatani_akiko/1438/
経口補水液は脱水症状を感じてから https://www.shirokawa.jp/column/kawatani_akiko/2297/
アスリートに学ぶ、水分補給方法 https://www.shirokawa.jp/column/kawatani_akiko/2898/
夏に体重を落とさない! https://www.shirokawa.jp/column/kawatani_akiko/2956/
夏でも持ち歩きしやすい補食とは https://www.shirokawa.jp/column/kawatani_akiko/3486/
◆執筆者:河谷彰子氏
管理栄養士
(公財)日本ラグビーフットボール協会 セブンズ アカデミー栄養アドバイザー
慶応義塾大学非常勤講師
日本女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻、筑波大学大学院で体育研究科コーチ学を専攻後、運動指導及び栄養カウンセリング、食サービスの提案を行う、ジュニアユースからトップチームまでのJリーグ選手やラグビー選手への栄養アドバイスを行う。