私なりの食育のアプローチ(執筆者:管理栄養士・体育学修士 河谷彰子氏)

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先日、中高齢者対象に食事についてのセミナーをした時の事です。1
『長寿の方は年をとっても肉を食べているとテレビで言っていたから、あまり好きではない肉を食べるようにしています。』
と教えてくださった方がいらっしゃいました。
私は『肉を食べる事が大切というよりも、肉を食べる事ができる丈夫な歯を持っている事が大切だと感じます。無理して肉を食べなくても、お魚でも良いですよ。』と答えました。
皆さんは、魚をどの位の頻度で召し上がりますか?
また、魚をさばく事は出来ますか?

大人が食べないから・料理をしないから子供が魚離れなのでは?

水産白書(平成27年度 水産庁)によると(右図)、1
1人当たりの魚介類の消費量は減少を続けており、平成21年から肉類の消費量が魚介類を上回っています。
消費される魚も変化しており、昭和40年には、アジ・イカ・サバが上位だったのが、現在では、サケ・イカ・マグロと変化しているそうです。
理由の1つは“家庭での下ごしらえが必要な一尾物の購入が減少し、切り身・刺身・干物が増加したため”です。
また、30歳代の魚介類の購入は60歳代の約1/3だそうです。つまり、子育て世代が魚介類を使った料理を作る頻度が低いと言えます。
理由は色々でしょう。
    ①子供が嫌いだから・作っても家族が食べないから作らない。
    ②調理が面倒だから。魚の生臭さが好きではないから。

これらのよくありがちな理由に対して、私の意見は以下の通りです。
    ①嫌いだから作らないなんて、優しすぎます。お腹が空けば、何でも食べますよ。
        家族みんなが美味しそうに食べていれば、いつか食べたくなる時がきます。
        美味しいと思えば、骨があろうが子供達は完食します。
        親御様に好き嫌いがある場合、子供達にはある程度の年齢になるまで隠しておくべき。
        嫌いだからと開き直るのは、子供の手前格好悪い!

    ②肉は既に内臓等の処理をしてあるのに対し、一尾物の魚は内臓の処理がされていない事が多い
        ですが、最近では処理をしてくれる魚屋さんやスーパーも多いですよね。つまり、肉も魚も調理
        の手間は、それほど変わらないのでは?
        焼き魚やホイル焼きは簡単ですよ。

魚釣りをして食べる。ここまでが食育。

私の事を“カワ君”と呼ぶ親友の子供・S君(小学校2年生)と、少し遠くに1
釣りに行った事です。
“どちらがルアーを飛ばせるか競争ね!”
“どちらが大きな魚をキャッチできるかな~?”
等と、小学生を相手に挑戦状を突き付けた私。
年齢等、関係ありません。容赦しません!
一方、釣り針につける“イソメ”を本当は触りたくない私に
“カワ君、イソメ触れないの?”と顔を覗き込むS君…
弱みは見せられない!と“触れるよ~”と指先を震わせながら“イソメ”を釣り針に仕込む私。
釣りをした日は、釣った魚を夕食の料理にして食べるまでが釣りとの事。親友的には疲れて帰宅して魚をさばくのは大変だから、次の日でも良いじゃないかとは思っているけれど、S君は許してくれないのだそうです。
S君より大きなキスを釣った私は、イシダイと共に、カレームニエルにして美味しく頂きました。

魚を釣っている時は、食べ物を釣っているという感覚はないでしょうが、それが料理という過程を経て食べ物になる様も見て、S君は命をいただいているんだと感じるのでしょう。
釣った分は残さず食べないとお魚さんが可哀そうという気持ちを持っているからこそ、S君は釣りもお魚を食べる事も大好きです。
小学校低学年までの子供の食育は、情報で伝えるというよりも、体験してその後に食べて終わるのが効果的だなと感じる瞬間でした。

魚の食べ方に美学を感じる。

大人の場合、魚の食べ方を見ると、魚を食べ慣れているかどうかが分かります。1
あるトップアスリートのサバの塩焼きの食べ方が上手でなかったため、使っていた箸を取り上げ
“ここも食べられるんだよ~!”
“付き合っている彼女のご家族と食事をしなくてはいけない時に、魚の食べ方が散々だったら、相手のご両親に何て思われるか…”
等とブツブツ言いながら、食べられる部分をより分けた事があります。
周りのアスリートには『河谷さんに、何やらせてるんだよ!』等と言われていましたが、そのアスリートは魚を食べる練習をしたようで、1カ月後には、と~っても綺麗に食べられるようになり、残った皮はパタッと折って、食べ終わった皿の様子も美しく食べ終えていました。

幼い時期は箸の使い方もままならないため、大人が食べられるようにより分けてあげる必要があるでしょう。魚の美味しさを知れば、手を使ってでもむしゃぶりつきます。最初はそれでも良いのです。
一方、魚を食べ慣れていない大人になってしまうと、子供達に食べやすくより分けてあげる事もできません。やっぱり、大人が美味しく美しく食べられる事が大切ですね。
余談ですが、数人で食事をした際、皆が食べやすいようにと尾頭付きの魚料理をホント綺麗に、最高に美しくより分けてくださった男性がいました。非常に驚いたと共に、美学さえ感じました。これだけ綺麗に食べてくださると、料理をした方も嬉しいだろうなと感じました。

魚を食べるとうつ病のリスクが下がる?!

魚は健康に良いという話は有名ですが、以前に以下の話しをお伝えした事があります。
                                                    (https://www.shirokawa.jp/column/kawatani_akiko/3006/参照)
・DHA(ドコサヘキサエン酸)・EPA(イコサペンタエン酸)は、心筋梗塞・狭心症等の心血管疾患
    の予防効果
あり。
・DHAは記憶や学習に効果的であると言われているが、頭が良くなるかは今のところ立証されてい
    ない。
・EPAは血液サラサラというイメージがありますが、これはイヌイットの脂肪のエネルギー比率が
    デンマーク人と同じ位、高いにも関わらず、心筋梗塞で亡くなる率がデンマーク人40%・イヌ
    イット約3%であるという発表がきっかけ。(1970年代 デンマークで発表)

その他には、
・魚を週8回食べる人と1回しか食べない人を比べると心筋梗塞の発症リスクが6割低い
                                                        (平成18年1月 厚生労働省研究班が『Circulation』に掲載)
・食事からとった魚介類由来の脂肪酸が多いほど、その後の循環器疾患死亡リスクが低い
                                                (平成26年2月 厚生労働省研究班が『Atherosclerosis』に掲載)
・n-3系多価不飽和脂肪酸を多く含む魚※を多くとっているグループの方が、肝臓癌の発生リスクは
    低い

                                (平成24年6月 (独)国立がん研究センターが“Gastroenterology”に掲載)
・n-3系多価不飽和脂肪酸を多く含む魚※を多くとっているグループは、少ないグループに比べて、
    すい臓癌の発生リスクが3割低い。

    (平成27年11月 (独)国立がん研究センターが“American Jornal of Clinical Nutrition”に掲載)

n-3系多価不飽和脂肪酸を多く含む魚:サバ・ニシン・マグロ・サンマ・イワシ・サケ・ブリ等の青魚

その他にも、うつ病のリスクが青魚を食べると減少するという(独)国立がんセンターの発表もあります。
                                (https://www.nikkei.com/article/DGXLASDG26H90_W7A920C1CR8000/

どれも大人の健康に良いという情報ですが、子供の頃から食べていないと大人になって、食べようとは思わないですよね。
大人は、体験で感じる食育より、情報から行動を変えた方が良さそうだと思う事が早道のようにも感じますが、それ以上に子供をきっかけに行動変容する方が多いように感じます。

好き嫌い全般に言えますが、好き嫌いは子供のせいではない!(特に小学生までは)
ある程度の年齢になったら、子供自身が行動を修正しないと好き嫌いは克服できない。それで悩む子供達も多い。
食育は1伝えて1反応がある訳ではありません。小学生までは特に地道なアプローチが大切です。
(スポーツキッズとの食の思い出https://www.shirokawa.jp/column/kawatani_akiko/2133/も併せてご覧ください。)

魚を食べる頻度が低いかも…という方、子供からアプローチします?それとも、大人から?

 


◆執筆者:河谷彰子氏

管理栄養士
(公財)日本ラグビーフットボール協会 セブンズ  アカデミー栄養アドバイザー
慶応義塾大学非常勤講師

日本女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻、筑波大学大学院で体育研究科コーチ学を専攻後、運動指導及び栄養カウンセリング、食サービスの提案を行う、ジュニアユースからトップチームまでのJリーグ選手やラグビー選手への栄養アドバイスを行う。

URL:http://www.kouenirai.com/profile/2448.htm